アスリートの肩の問題は、個人的には評価も治療も苦手です。
そういう苦手意識もあり、最近肩に関する論文や成書を集中的に読んでいるのですが、今回はその中でもかなり良かった論文の一部を紹介しようと思います。


この論文は、全てのレベル・あらゆる種目のアスリートにおける肩のスポーツ外傷・障害に対して
- そのリスクのマネジメント(予防プログラム)
- 負荷の管理とその漸進の方法
- 受傷後のリハビリテーション
- 競技復帰における意思決定
についての専門家の意見をまとめたコンセンサスステートメントになります。
今回はその中の特にリハビリテーションの項目について。
アスリートの肩のリハビリにおける基本的な考え方
臨床家は、アスリートあるいは競技に特異的な要因を考慮してリハビリテーションのプログラムを作成するべきであるとされます。
また、リハビリテーションは病理解剖学的な診断のみに基づいて進められるべきではなく、むしろプログラムに対する症状や組織の反応を指標として行われるべきであるともされます。
ここは大事そうですよね。
医師が下す診断はあくまで器質的な要因に基づくものであって、そこの背景にある根本的な原因(なぜ痛くなったのか、なぜその症状が出るのか)というのは人によって全く異なりますからね。
ただ、病態と今の状態を明らかにするという点では医師の診察は受けておく方が良いとは思いますが。(特にきちんと医学的な教育を受けた指導者がいない場合)
受傷後のアスリートにおけるリハビリテーションの中では、以下の点に注力する必要があります。
- 競技特異的なバイオメカニクス・テクニックを改善させること
- アスリートのキャパシティの上限に近付くような、チャレンジングなプログラムを用いてリハビリテーションの強度を増大させていくこと
- 生理学的・心理学的両視点からの「レジリエンス」を考慮すること
- 意思決定の際には多職種連携をすること(当然ここにはアスリート自身も含まれる)
基本原理①:”Irritability”をリハビリのガイドとする
“Irritability”というのは、イメージとしては症状の強さの程度、症状がどの程度引き起こされやすいか、というものであると考えてもらえると良いかと思います。
(この文脈に適した日本語訳はあるんでしょうか、、、)
この考え方はこのコンセンサスで全く新しいコンセプトとして提案されたものではなく、おそらく2015年のMcClureとMichenerによる以下の文献が元になっていると思われます。
この文献(および上述のコンセンサス)では、irritabilityのレベルで患者を3段階に分け、それぞれのレベルで何をすべきかを明示しています。


これは肩に特有なアプローチというよりも、他のあらゆる筋骨格系の機能障害にも通じるものだと思います。
具体的なアプローチとして何をすべきか、という点についてはここでは明示されていません。
まあ、その辺はリハビリテーションなどに関する成書を参照すれば良いでしょう。
基本原理②:運動療法を用いて、臨床的意義のある肩甲上腕関節のROM制限にアプローチする
特に投球動作を多く行うアスリートで、内旋可動域の制限(GIRD; Glenohumeral Internal Rotation Deficit)や外旋可動域の過剰な増大(GERG; Glenohumeral External Rotation Deficit)が見られるというのがよく言われます。
GIRDがオーバーヘッドアスリートにおける上肢傷害の発生を高める傾向が見られるとするメタ分析(Keller et al., 2018)や、GERGあるいは外旋ROM制限のある人をシーズン前に同定することが特定の競技集団における傷害リスクのスクリーニングに有効である可能性を示唆するメタ分析(Pozzi et al., 2020)など、この可動域と傷害リスクに関する文献は多く存在します。
しかし、これらはいずれも統計的な有意差が認められなかったり、あるいは包摂された文献の質的問題もありまだ確実な結論を出すのは難しいと考えられます。
それらを認めた上で、このコンセンサスでは以下の2点を強調しています。
- GIRDやGERGは生理的な組織の適応である。生理的な適応と病的な適応を区別するためのエビデンスは不足している。
- GERGは、例えそれが生理的な適応であったとしても、将来的な傷害を防ぐために運動療法を用いて適切にマネジメントされるべきである。
ここでのGERGのマネジメントというのは、増えてしまった可動域を制限するということではなく、あくまでその獲得した可動域も加えた範囲で適切に動きをコントロールできるようにすべき、ということでしょうね。
実際、リハビリテーションの成書では「この過剰な外旋可動域を維持することは適切な投球メカニクスにとっては避けられない」と指摘しています(Manske, 2018)。
ちなみに、GIRDとGERGの評価は背臥位で角度を計測し、健側と比較することで行います。外旋・内旋可動域についてそれぞれ健側と比較して、内旋はマイナス〇度、外旋はプラス〇度……といった感じです。

この方法はiPhoneの傾斜計のアプリで測ることができるので個人的に好きです。
検査精度がどうかは微妙ですが、、、まあ同じシチュエーションで同じ人が、同じ測定法で測っているのでいいかなって、、
ホントはゴニオメーターで測定するのが良いでしょうけどね。
基本原理③:肩甲骨にアプローチする必要はあるが、肩甲骨ジスキネジアをスクリーニングする必要はない
肩甲骨ジスキネジアというのは、胸郭に対する肩甲骨の運動・ポジションの異常変化と定義されます(Crellin et al., 2018)。
この肩甲骨ジスキネジアはオーバーヘッドアスリートにおいて高い確率で生じうる一方、そのスクリーニング自体はほとんど、あるいは全く臨床的に意義がないと指摘しています。
その一方で、肩甲骨に対するアプローチは肩のスポーツ外傷・障害に対する「ホリスティックな」アプローチの一要素とすべきであるともしています。
具体的なアプローチとしては、肩甲骨ジスキネジアに対するアプローチを考えれば良いのでしょうか。
このあたりはオープンアクセスの論文では以下のレビュー・expert opinionが参考になります。
基本原理④:適切なエクササイズを選択する
リハビリテーション中のエクササイズにはOKCもCKCも含まれているべきであり、それは傷害のタイプやリハビリテーションのフェーズによっても異なります。
しかしどちらにせよ、最終段階でのエクササイズでは必ず競技で要求されるような要素がベースとなるエクササイズをチョイスすべきであるとしています。
このコンセンサスでは、エクササイズについて多くの例も挙げられているため(いくつかはsupplementary materialとして映像もあり)、この点でも非常に参考になります。
基本原理⑤:リハビリ早期からプライオメトリクスを動員する
プライオメトリクスはアスリートが競技特異的な負荷に対する準備を助けるのに役立つため、可能な限り早期から始めるべきであるとしています。
これはどうですかね、、、個人的には明らかな筋力や可動域の制限がない状態になってから始める方が良いのではないかなーと思いますが(この辺はDaviesらによるレビューでも言及されています(Davies et al., 2015))。
この点については一次研究で調査しても面白そうですね。プライオメトリクスの導入タイミングがリハビリテーションに関するアウトカムに与える影響、みたいな、、、(筆者の空想です笑)
基本原理⑥:「脳を鍛える」(Train the Brain)
スポーツ外傷・障害というのは、それが急性であれ慢性であれ、皮質レベルでの活動性を変化させることが少しずつ明らかになっています。
代表的なものとしては膝前十字靭帯損傷(ACL)であったり、慢性足関節不安定症であったりは多く研究がなされている印象です。
肩についてのこのトピックはあまり研究がなされていませんが、このコンセンサスでは「ACL損傷に対するアプローチとして提唱されているコンセプトを応用することができる」としています。
この点として、筆者らはGokelerらによる以下の文献を引用しているため、こちらは一読しておく方が良いでしょう。

ここではアプローチの例として以下のものが挙げられています;
- エクスターナルフォーカスexternal focus
- 暗黙的学習implicit learning
- ディファレンシャルラーニングdifferential learning
- 自己調整学習self-controlled learning
- 文脈干渉contextual interference
このプロセスでは、アスリートにとって「怖い、不安な」動作に段階的に暴露していくことや、動作イメージ(イメージトレーニング)やミラーニューロンの活用などを含めることができるともされます。
このような脳の可塑性や運動学習といったトピックは考え出すと膨大になるので、また別の機会があればまとめてみようと思います。
個人的に、リハビリテーションにおいて運動学習理論をどのように活用していけるか、という点については以下の文献が参考になりました。

基本原理⑦:競技特異的なエクササイズを行う
単平面(uni-planar)でのエクササイズは特定の筋力やパワー・持久力の強化には有効ですが、最終的には多平面(tri-planar)での複雑なエクササイズを動員していくべきであるとしています。
この文献が臨床的に有用だなーと感じた理由のひとつでもあるんですが、ここでは「じゃあどのようなエクササイズをすれば良いのか?」ということについて例示もしてくれています。

もちろんこれらのエクササイズを思考停止して処方すれば良い、というわけではないですが、それでもこのようにエクササイズの例を示してくれるのは引き出しが増えるという意味でも嬉しいですね。
まとめ
ということで、今回はアスリートの肩のリハビリに関するコンセンサスのうち、特にリハビリテーションに関するトピックをまとめました。
この文献ではリハビリ以外にも傷害予防、競技への復帰の考え方についても記述されており、また参考文献まで読み込めば非常に学びの多い良い文献であると感じました。
こうやって1つ読んだら知らなかったトピックについていくつも触れられる文献はすごく良いですね。
とはいっても、結局は基本的な枠組みは成書で学ぶ必要があるでしょうが。。。
文献
Key Reference:
Schwank A, Blazey P, Asker M, et al. 2022 Bern consensus statement on shoulder injury prevention, rehabilitation, and return to sport for athletes at all participation levels. J Orthop Sports Phys Ther. 2022;52(1):11-28. doi:10.2519/jospt.2022.10952
- Crellin CT, Honig KM, McCarty EC, Bravman JT. Shoulder Injuries. In Madden CC, Putukian M, Young CC, McCarty EC, eds. Netter’s sports medicine. 2nd eds. Elsevier;2018
- Davies G, Riemann BL, Manske R. CURRENT CONCEPTS OF PLYOMETRIC EXERCISE. Int J Sports Phys Ther. 2015;10(6):760-786.
- Keller RA, De Giacomo AF, Neumann JA, Limpisvasti O, Tibone JE. Glenohumeral Internal Rotation Deficit and Risk of Upper Extremity Injury in Overhead Athletes: A Meta-Analysis and Systematic Review. Sports Health. 2018;10(2):125-132. doi:10.1177/1941738118756577
- Magee DJ, Manske RC. Orthopedic Physical Assessment. 7th ed. Elsevier, Inc; 2020.
- Manske RC. General principles of shoulder rehabilitation. In Giangarra CE, Masnke RC. Clinical orthopaedic rehabilitation; a team approach. 4th edition. Elsevier;2018
- McClure PW, Michener LA. Staged approach for rehabilitation classification: Shoulder disorders (STAR-shoulder). Phys Ther. 2015;95(5):791-800. doi:10.2522/ptj.20140156
- Pozzi F, Plummer HA, Shanley E, et al. Preseason shoulder range of motion screening and in-season risk of shoulder and elbow injuries in overhead athletes: systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2020;54(17):1019-1027. doi:10.1136/bjsports-2019-100698




コメント