医学書が多く置いてある書店などで理学療法の棚を眺めていると、運動器リハビリテーションに関する参考書は非常に多く種類があります。
その中でこの理学療法マネジメントシリーズは、治療手技というよりも疾患や病態の基礎知識、評価、治療の方向性などについて可能な限りエビデンスを参照しつつまとめたものです。
肩関節以外にも肘・脊柱・股関節・膝関節・足部足関節、そして脳卒中についてのシリーズがあります。
今回はこのシリーズの特に『肩関節』について、とても良い本だったのでレビューしたいと思います。

執筆時点(2024年の9月)で、筆者はこのシリーズのうち『肩関節』『脊柱』『足部・足関節』を読みましたが、いずれも基礎知識を整理して介入の枠組みについて最も基礎的な部分を整理するという点で非常に素晴らしい本だと思います。
本の構成
この本は全部で4章16チャプターから構成されています。
- 最初の章は「肩関節理学療法の概要」として、基本的な介入の考え方や関節に関する基礎医学的な知見を紹介し、
- 次の「肩関節疾患を理解する」という章で臨床でよく見られる疾患に関する知識を整理、
- 続く3章「機能障害別マネジメント」と4章「機能障害別ケーススタディ」で評価や介入に関して
といった形で説明が進められていきます。
後述するように、この『マネジメント』シリーズは全体として疾患別の考え方というよりも機能障害別でそれぞれの問題に対してどのような評価・介入を行っていくか?という視点で書かれているため、後半の章立てもそのようになっています。
例えば3章の「機能障害別マネジメント」は次の5つのチャプターで構成されています。
- 肩甲上腕関節の動的安定性低下(骨頭求心性の破綻)
- 肩関節の可動域制限
- 肩関節の不安定性
- 肩甲骨アライメントや運動の異常
- 投球動作の不良
この考え方はグローバル的にも一般的なものであり、例えばLudewigらは肩関節に焦点を当てて、従来の「病理解剖学的pathoanatomical」診断から、介入に直接的に関連し運動系の観点から病態を捉え直す「病理運動学的pathokinesiological」診断に枠組みを転換していくべきと指摘しています1。
また、凍結肩に関する理学療法マネジメントのガイドラインは”Shoulder pain and mobility deficits: adhesive capsulitis”と題されており、ここからも疾患自体というよりも機能障害を最初に考えるべき、という意図が読み取れるような気がします。

内容について
構成のところで既に内容についても少し言及し始めてしまった気もしますが、、
最たる特徴は、その参考文献の豊富さ
この『マネジメント』シリーズのコンセプトは「監修の序」で解説されていますが、特に自分が着目したのはこの部分です。
……近年では、……文献や書籍の数はすべてを追いきれないほどに増加し、むしろどれを選択して読めばいいのか難しくなってしまうほどです。結果、目に入るものだけ読む、あるいは選択すること自体が億劫で読まない、という状況に陥りやすいことを筆者自身も感じることがあります。
そこで、本マネジメントシリーズはエビデンスを中心とした内容にまとめることにしました。そうすることで、理学療法の評価と治療に関するエビデンスを知るだけでなく、エビデンスの基となる論文を読む機会も生まれます。また、読むべき論文も自動的に選択されて、効率良く必要な論文を読むことができるでしょう。……
この言葉を体現するように、全ての章で参考文献が充実しています。
もちろん専門書のように1セクションで何百とはされていないものの、全体として20~30/セクションは参考文献が列挙されています。

また、本文中ではsuggested reading(これは読んでおくと良いよ、という論文)も紹介されており、「監修の序」で述べられているようにこれから論文を読もうとする人がどのような論文を読めば良いか、最初の一歩の指針としても非常に有用です。

この論文は2009年の文献であり、その後にも似たようなトピックに関する多くの文献が発表されている。
各エキスパートによる執筆も嬉しいポイント
この本は1人の著者が全てを執筆しているわけではなく、分担で執筆が行われています。
例えば実際の機能障害別マネジメントのところは理学療法士によって記述されていますが、疾患に関するチャプターは医師によって執筆されています。

医師による執筆は手術の手技などの詳細について書きすぎることなく、しかしポイントを押さえておりまさに「理学療法士(やアスレティックトレーナー)が知っておいて欲しいこと」を簡潔にまとめられており、医師との共通言語を持つという点でも有効かと思われました。
これは個人的に好きなポイントで、例えば疾患や器質的な問題に関しての理解は圧倒的に医師のほうが深い造詣を有しているわけで、中途半端に理学療法士の方が説明するよりは医師による説明を受けた方がむしろわかりやすいということが往々にしてあります。
他職種から同じ疾患について見る、というのは非常に重要ですよね。
内容は基礎知識が多めで、ピーキーな手技などは含まれていない
本文中では写真や図などの画像が豊富に含まれており、基本的には2色刷ですが鏡視下での画像などはフルカラーで印刷されています。
内容のボリュームはそこまで多くも少なくも無いと思いますが、論文などに全く触れたことの無い方にとっては少し読みづらい?のかもしれません。
実際、特に論文に全く触れたことのない僕の友人は「1年目で読むのは難しいかも」という感想を抱いていました。
レイアウトなど全体の雰囲気については、公式HPでサンプルが閲覧できるので、参照すると良いでしょう。

繰り返していることですが、この参考書の内容は全体として基礎的な知識が多いため、特に個別筋の滑走が〜といったような細かな(?)手技に関してはほとんど言及がありません。
介入として書かれていることは基本的なストレッチングやモビライゼーション、筋力トレーニングなどであり、すでに臨床に出て十何年という人にとっては既存の知識しか無いかもしれません。。
これは決して内容のレベルが低いと言っているわけではなく、むしろ各関節の運動器障害の勉強はここから始めていくことで盤石な基礎ができ、応用もしやすくなるのではないかと感じます。
レビューのまとめ、そして次に何を学ぶか
『肩関節理学療法マネジメント』のレビューをまとめると次のような感じです。
- 肩関節の疾患と機能障害について基礎的な(≠簡単な)知識を整理する上では非常に良書。
中堅〜ベテランの方が実臨床でぶち当たった特定の問題について、それを解決するための手技を見つける、という本ではないかなーという印象。 - 本文は学術的に記述されているため、人によっては若干読みづらいという指摘も。
個人的には、これから論文を読み進めていくという視点から考えれば、そのような学術的な記述スタイルに慣れるという点でもじっくり読み込んでいくのが良いのではないかとも感じる。丁寧に読んでいけば難しいことは書かれていない。 - この本はおそらく参考文献までシャブリ尽くすのがミソ。本文の内容からさらに参考文献に読み進め、EBP(エビデンスベースの実践)が出来るようにしたい。
ピラミッドは土台が最も大きくなるように、我々の知識・技術もまた土台を構築するのが最も骨の折れる作業であると言えます。
この本はまさにそのような「土台」を提供するものであり、ぜひ定期的に改訂していって欲しい参考書の一つであると感じています。
学術的な知見のアップデートについて
この本は2019年に出版されたものですから、当然それより先の論文や学術的な情報に関してはありません。
しかしそれ以降にも非常に良い論文が出されていますから、前述したようにこの本を土台にして様々な論文を読んでいくと良いでしょう。
こういう時にsuggested readingの情報が役立ちます。
例えばsuggested readingとして挙げられている文献をConnected Papersで調べることで、次に読むべき論文が見つかるかもしれません。

また、肩関節に関する包括的なレファレンスとしてはRockwoodの”The Shoulder“があります。
手技について
これも前述したように、この本では細かな手技やエコーを用いた軟部組織の治療などについてはほとんど触れられていません。
したがって、この点については別の書籍やセミナーを参照する必要があります。
いわゆる技術的な攻略本であれば、例えば「痛みの理学療法」シリーズや「拘縮」シリーズなどが参考になるかもしれません。
これはあくまで個人的な見解であり、自分に合った参考書がベストなのは間違いありません。
とは言っても、結局のところ手技は技術なのでエキスパートに直接指導してもらう形式のほうが良いでしょうね……。
ということで、今回のレビューはここまで。
肩に関してはまだ書きたい事があるので、ここでもどんどん書いていきたいなー。
- Ludewig PM, Kamonseki DH, Staker JL, Lawrence RL, Camargo PR, Braman JP. CHANGING OUR DIAGNOSTIC PARADIGM: MOVEMENT SYSTEM DIAGNOSTIC CLASSIFICATION. Int J Sports Phys Ther. 2017;12(6):884-893. ↩︎



コメント