スペシャルテスト肩複合体

SSMP〜肩関節障害の原因を評価するテスト〜

スペシャルテスト

肩関節は複雑な構造をしているため、同じような症状を呈している人であってもその原因は異なるということが往々にしてあります。

LewisによるSSMP(Shoulder Symptom Modification Procedure)は、そのような肩関節の症状について、「どの要素がその症状に最も大きく関与しているのか?」を評価するためのプロセスです1,2,3

この記事ではこのようなSSMPについて、プロセスを解説していきます。

基本的な枠組み

以下は、SSMPを実施するにあたって理解しておくべき事項と基本的な原則になります。

  • SSMPは病変の特定ではなく、症状を誘発する要因を特定する検査である。
  • SSMPでは胸椎、肩甲骨、上腕骨頭についてアライメントの操作や「評価的な」治療を施し、それが症状をどのように変化させるかを確かめる。
  • 症状の変化は3割以上の変化を臨床的意義のある変化とみなす(例えば痛みであればNRSで7→4になるなど)。
  • また、症状の変化は一貫性があるべきであり、同一の操作をしたら同一の症状変化が生じる必要がある
  • ある1部位の症状が100%改善したら、その部位へフォーカスした介入を行えばよいということになる。
  • 複数部位の修正で100%改善したら、その複数部位へ介入を行う。

また、頸椎に関する評価を行って神経学的な評価を行うこと、そして特に初回のセッションであればレッドフラッグを除外することは言わずもがな必須です。(今回は省略しますが、、)

いわゆる「鑑別診断」(differential diagnosis)を学ぶ上では、以下の本がオススメです。

また、肩の疼痛における非整形外科的な要因に関するreviewとしては以下の文献があります。

  • Lollino N, et al. Non-orthopaedic causes of shoulder pain: what the shoulder expert must remember. Musculoskelet Surg. 2012;96 Suppl 1:S63-S68. doi:10.1007/s12306-012-0192-5

ステップ0:症状を誘発する動作を特定する

SSMPのプロセスを実施する前に、検査者は「患者がどの動作で症状を訴えるのか」を特定する必要があります。

これは患者が訴える動作でも、あるいは症状を誘発するようなスペシャルテスト(Hawkins-Kennedyテストなど)でもOKです。

個人的な経験則としては、患者にとって意味のある動作を特定した方がその後の介入のアドヒアランスを高めるという点では有効のように感じます。
例えば投球動作のlate-cocking phaseで疼痛を訴えているのであれば、その相を取り出してSSMPを行って症状が改善すれば、クライアントとしても

  • 自分の痛みが改善する見込みがあること
  • その痛みを改善する道筋がわかりやすくなること

といったメリットがあるため、非常におすすめです。

ステップ1:胸椎領域

原著では修正の順番はどの順番でも良いとしていますが、個人的に肩の問題は「近位から攻めるべき」と考えています。
なので、ここからのステップの順番は基本的に近位領域から紹介しています。

胸椎の問題と肩関節の障害に関する関係性は明らかではないものの4、臨床的観点からは肩関節障害を有する患者では胸椎の後弯増強姿勢を多く見かけます。

もしこの後弯増強姿勢を修正することで症状が改善されるのであれば、それは胸椎が肩関節障害の問題であることを示唆します。

SSMPでは胸椎のアライメントを徒手的、またはテーピングの施行で修正し、症状がどの程度変化するかを記録します。

筆者
筆者

前述したように、臨床的には胸椎後弯増強姿勢が多く見られることから、胸椎を若干伸展させる方向に動かすことで症状が改善することが多いです。
しかしそれ以外にも、例えば回旋・側屈・側弯など前額面・水平面でのマルアライメントも見られるのであれば、それらも順に(あるいは組み合わせて)修正し、症状の変化を確かめていく必要があります。

ステップ2:肩甲骨

肩甲骨の問題は、肩関節障害の介入においても重要な役割を果たしています。

SSMPでは、肩甲骨を特定の方向(挙上・下制・外転・内転・前傾・後傾・内旋・外旋・上方回旋・下方回旋)に動かして症状の変化を確かめます。

筆者
筆者

経験上、胸椎後弯と併存するように肩甲骨が前傾・外転・内旋・下方回旋・下制のいずれかあるいはその組み合わせという形でのマルアライメントを呈していることが多く見られます。

したがって、それぞれ逆の方向(後傾・内転・外旋・上方回旋・挙上)に動かして「どの方向に動かしたときに最も良い反応を示すか(そして再現性のある変化を認めるか)」を確認します。

これは経験則ですが、肩の症状を有しているクライアントの多くは胸郭に対する肩甲骨の安定性が欠如しているため、肩甲骨を固定するように外旋・内転・後傾・わずかな上方回旋を加えることで症状が劇的に改善することが多い印象があります。

徒手的な修正が難しければ、テーピングを施行してアライメントを修正します。

ステップ3:上腕骨

上腕骨に対するアプローチは、いわゆる「診断的治療」としてのモビライゼーションテクニックやモビライゼーションベルトを使用することで、骨頭の位置を修正して症状変化を確かめます。

骨頭の下制を誘導するための徒手的テクニック。上腕骨遠位を下から支え、患者にその手を押し返すように指示する。5〜6秒の等尺性収縮を3回繰り返す。図は文献[3]による。
ベルトを用いた上腕骨頭のアライメント修正方法の一例。図は文献[3]による。
筆者
筆者

Shirley SahrmannによるMSIアプローチでは、上腕骨に関しては特に前方グライド症候群と上方グライド症候群、そして肩甲上腕関節内旋症候群を取り上げています5

この点を考慮すると、多くの患者は①骨頭の前方並進または上方並進が過剰またはその逆の動きが足りない、②上腕骨が内旋位で定位しているか外旋の動きが不足している、のいずれかにカテゴライズされると考えて良いかと思います。

つまり、骨頭を少し後方・下方に動かしたり、あるいは可能であれば等尺性に外旋筋を作用させたまま動作を行って症状改善するかを確認すれば良いということになります。

補足:頸椎領域の評価

GH関節の運動に伴う下位頸椎の運動の評価

特に肩甲上腕関節の挙上動作や外転動作において、頸椎〜上位胸椎において同期的な運動が起こることが明らかになっています。

例えばTakasakiらは、右肩外転動作において、90度までの自動外転では特にC6を中心とした下位頸椎で左回旋する傾向が認められたと報告しており6、またBaertschiらは屈曲最終域で頸胸椎移行部では対側への側屈・伸展・同側への回旋が生じると指摘しています7

したがって、

  • GH関節挙上・外転動作で下位頸椎棘突起の水平面上の動きを評価する
  • 当該頸椎・胸椎の関節の遊び(PAIVM; passive accessory intervertebral movement)を見る
    (特に回旋を評価するという点ではPAUVP(posteroanterior unilateral vertebral pressure)が有効)
  • 頸椎〜胸椎にPAグライドモビライゼーション(central or unilateral)を実施し、症状変化を確かめる

というアプローチは、頸椎の問題が肩複合体の問題に関連しているかどうかを考える上で有効であると考えられます。

モビライゼーションを含む徒手療法を頸椎(特に上位頸椎)へ行う場合、必ず血管系のテストを行い、重大なリスクを減らす配慮をするべきです8
このための最もシンプルなテストはprovocative positional testingと呼ばれるものであり、これはこれから実施しようとする徒手療法で持って行かれる頸椎の位置で10〜30秒保持し、椎骨脳底動脈障害を示唆する症状(めまいや嘔気など)が引き起こされないか確認するというものです。

頸椎(特に上位頸椎)に関するアプローチを行う際に考慮すべきこのような血管系の問題に関しては、以下のガイドラインが参考になります。

  • Rushton A, et al. International framework for examination of the cervical region for potential of vascular pathologies of the neck prior to musculoskeletal intervention: International IFOMPT Cervical Framework. J Orthop Sports Phys Ther. 2023;53(1):7-22. doi:10.2519/jospt.2022.11147

神経的要因のスクリーニング

頸椎神経根症や末梢神経線維のirritabilityによる神経症状をスクリーニングするためには、distraction testやULNT(Upper Limb Neurodynamic Test)を行っていくのが良いと考えられます。

正中神経に対する検査と紹介されていますが、C5,6,7神経根に対する検査としても利用できると考えられます(Magee & Manske, 2020)。

頸椎神経根症に対しては良くSpurling test(スパーリングテスト)が用いられますが、実際のところ感度は中程度であり9、除外という観点からどの程度有効かは注意して解釈する必要があります。

おわりに

SSMPは、信頼性という観点からは推奨されないという指摘もありますが10、個人的には以下の点を考慮してよく利用しています。

  • 評価から介入までの流れがスムーズになる(SSMPで症状が消失した時点で、そこまでに修正した要素がそのまま介入の目標となる)
  • 患者自身が「自分のこの痛みは改善することができる」という気づきを得て、介入に対する動機づけになると共にアドヒアランスの高まりにもつながる

一方で、急性炎症や明らかに器質的病変がある場合には100%症状が改善されないこともあるため注意が必要です。

References

  1. Lewis JS. Rotator cuff tendinopathy/subacromial impingement syndrome: is it time for a new method of assessment?. Br J Sports Med. 2009;43(4):259-264. doi:10.1136/bjsm.2008.052183 ↩︎
  2. Lewis J, McCreesh K, Roy JS, Ginn K. Rotator cuff tendinopathy: Navigating the diagnosis-management conundrum. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(11):923-937. doi:10.2519/jospt.2015.5941 ↩︎
  3. Lewis J. Rotator cuff related shoulder pain: Assessment, management and uncertainties. Man Ther. 2016;23:57-68. doi:10.1016/j.math.2016.03.009 ↩︎
  4. Barrett E, O’Keeffe M, O’Sullivan K, Lewis J, McCreesh K. Is thoracic spine posture associated with shoulder pain, range of motion and function? A systematic review. Man Ther. 2016;26:38-46. doi:10.1016/j.math.2016.07.008 ↩︎
  5. Sahrmann S. Diagnosis and treatment of movement impairment syndromes. Mosby;2002 ↩︎
  6. Takasaki H, Hall T, Kaneko S, Iizawa T, Ikemoto Y. Cervical segmental motion induced by shoulder abduction assessed by magnetic resonance imaging. Spine (Phila Pa 1976). 2009;34(3):E122-E126. doi:10.1097/BRS.0b013e31818a26d9 ↩︎
  7. Baertschi E, Swanenburg J, Brunner F, Kool J. Interrater reliability of clinical tests to evaluate scapulothoracic motion. BMC Musculoskelet Disord. 2013;14:315. Published 2013 Nov 5. doi:10.1186/1471-2474-14-315 ↩︎
  8. Magee DJ, Manske RC. Orthopedic Physical Assessment. 7th ed. Elsevier; 2020. ↩︎
  9. Thoomes EJ, van Geest S, van der Windt DA, et al. Value of physical tests in diagnosing cervical radiculopathy: a systematic review. Spine J. 2018;18(1):179-189. doi:10.1016/j.spinee.2017.08.241 ↩︎
  10. Meakins A, May S, Littlewood C. Reliability of the Shoulder Symptom Modification Procedure and association of within-session and between-session changes with functional outcomes. BMJ Open Sport Exerc Med. 2018;4(1):e000342. Published 2018 Apr 10. doi:10.1136/bmjsem-2018-000342 ↩︎

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