※一応日本語での出版もされています(以前まで原著第4版の邦訳はありましたが、2023年に原著第7版(2024年時点で最新の版)の邦訳が出版されました)。
運動器について適切に評価をできることは、例えばトレーナーの現場で直ちに医師の診断を仰ぐ必要があるかどうかを判断するという点でも、あるいはアスレティックリハビリテーションにて適切な治療プログラムを考えるという点でも必要不可欠です。
評価というものは様々な点から患者やアスリートを見る必要があり、それは単にスペシャルテストを行うだけではなく、情報の聴取から観察、可動域検査、神経学的検査など様々なものを含んでいます。
この本はそのような評価に必要な基本的な要素、その全てが含まれています。誇張ではなくです。
したがって、運動器を見る上でこの1冊の内容についてマスターすることは極めて有効でしょう。
自分もこの本を使って1年以上勉強していますが、おそらく今まで読んだ運動器の評価の中で最も基礎的な(≠簡単な)内容が展開されており、あらゆる知識への応用に役立っています。
今回はこの成書のレビューを少し。
本の構成
前述したように、この本は運動器の部位別の評価+αについて書かれています。
チャプター構成は以下の通り。
- Principles and Concepts
運動器評価とは、どの部位でも必須の聴診すべき要素、可動域は何を見ているか、など - Head and Face
頭蓋と顔面について。脳神経やバランスなどもこのチャプター - Cervical Spine (頸椎)
- Temporomandibular Joint (顎関節)
- Shoulder (肩複合体)
- Elbow (肘)
- Forearm, Wrist, and Hand (前腕〜手指まで)
- Thoracic (Dorsal) Spine (胸椎)
- Lumbar Spine (腰椎)
- Pelvis (骨盤)
- Hip (股関節)
- Knee (膝)
- Lower Leg, Ankle, and Foot (下腿〜足趾まで)
- Assessment of Gait
→歩行の観察や評価など。Rancho Los Amigosの評価シートも含まれていた気がする - Assessment of Posture
→姿勢の観察や評価など。各部位での異常アライメントに関する内容が統合されている感じ。 - Assessment of Amputee
→切断について(筆者未読) - Primary Care Assessment
→プライマリケア(初期対応時の評価)、スポーツ参加前の機能的評価など。 - Emergency Sports Assessment
→スポーツ現場における緊急時対応について。
Chapter 2~13までは全てのチャプターで、
- Applied Anatomy (評価の観点で重要な解剖学的な内容のまとめ)
- Patient History (問診で聞くべき項目とその解釈)
- Observation (観察で見るべき項目、前後側方などで分かれる)
- Examination (実際に患者に触れて行う検査全てが含まれる)
という構成になっており、最後にはPrécis(フランス語で「要約,概要」の意味らしい)という形で「どういう順番で評価するか、どの検査を実施するか」がまとめられています。
これが地味にありがたい。

いわゆる検査・測定の項目はExaminationのセクションに含まれており、チャプター間で若干の違いはあるものの(例えば膝ではSpecial Testsから独立して靭帯に対するスペシャルテストをまとめているLigament Stabilityのセクションがある)、概ね以下の要素が含まれています。
- 自動運動
- 他動運動
- 抵抗運動
- 機能的評価(アセスメントスケールなど)
- スペシャルテスト
- 反射などの神経的検査
- 関節運動学的検査(joint playなど)
- 触診
- 画像評価
内容について
言語的な難しさ
言語は英語です。ただし言語自体は専門性の高い言い回しはなく、基本的な英語が理解できていれば十分理解できるレベルだと思います。(当然筋骨格系の専門用語は理解しておく必要がありますが)
例として、膝のLachmanテストに関する記述を挙げておきます。
The Lachman test, which may also be referred to as the Ritchie, Trillat, or Lachman-Trillat test, is the best indicator of injury to the anterior cruciate ligament, especially the posterolateral band,……
It is a test for one-plane anterior instability and for many is considered the “gold standard” for a clinical diagnosis of an anterior cruciate ligament injury.(私訳:LachmanテストはRitchie, Trillat, Lachman-Trillatテストとも呼ばれることもあり、前十字靭帯、特にPL bundleの受傷に対する最良の指標である。……
Orthopaedic Physical Assessment, 7th edition. p. 909
このテストは一方向前方不安定性に対するテストであり、多くの人にとって前十字靱帯損傷の臨床診断における「ゴールドスタンダード」であると考えられている。)
内容の構成
最初のApplied Anatomyに関しては、評価に関連する知見について過不足なくという感じだと思います。
まあ、そもそも評価を勉強する時点である程度解剖や運動学的な内容については十分理解できているのは前提になっているとは思います。
色々な図がNeumannの”Kinesiology of the Musculoskeletal System”(Elsevier社)から引用されているため、解剖・身体運動学についてはこの本を参照するのも良いかもしれません。
余談ですが、この『筋骨格系のキネシオロジー』もついに原著4版が出たみたいです。
解剖・運動はある程度含まれていますが、基本的な病理学的な知識や整形外科疾患、その他筋骨格系以外の内容についてはほとんど触れられていません。まあそうですよね。
この辺の「予備知識としてあると良さそうな内容」についてはまた最後にも触れたいと思います。
内容とそのボリューム
ページ数的には1000ページ超えとなかなかボリューミーですが、実際は図が多く使われていたり、部位別以外のチャプターがあったりとするのでそこまで多くはないかと。
内容はかなり網羅的に書かれているので、これがあれば知識として不足することはないが、実際に臨床では「何したら良いか」というのは迷うかな……という印象は持ちました。
特に肩については内容が多いというか、他部位に比べると内容が若干とっちらかっているようにも感じます。筆者の専門部位なのかな、、、
スペシャルテストについては、文献として取り上げられているものをおそらく網羅的に列挙しているので、必ずしも実臨床で必要あるか微妙なものも含まれています。
特に膝の靭帯不安定性のスペシャルテストについては、筆者自身も、
There are a number of tests for each type of instability. The examiner should use the one or two tests that he or she believes gives the best results.
(私訳:それぞれの不安定性の種類について多くのテストが存在している。検査者は(各方向について)1つか2つ、自身が最良の結果を得られると思えるテストを用いるべきである。)
p. 901
と記述しています。
ここまでちょっとマイナスなこと書いてるようにも見えますが、それでも内容については圧倒的です。
ただ検査の手法について解説するだけではなく、それが何を意味するのか、どう解釈するのか、という点まで詳細に記述をしてくれているため、統合と解釈には非常に役立ちます。
触診(Palpation)のセクションについては評価の点で必要なものは記述されていますが、詳細な触察の方法については書かれていないので注意かもです。
画像評価(Diagnostic Imaging)のセクションについては、特定の疾患について書かれているわけではなく、特定の方向の像について何を見るべきか、が書かれているという感じです。
正常な画像についてはそこまで多くないため、それはまた別の成書が必要かな……
内容とレイアウトについて
前述した通り、図やイラストなどが多く、ほとんどの手技については画像が掲載されています。
理学療法士がやるようなゴニオメーターの計測法についてはありません。
ただしたまに説明と違う手の置き方だったりすることもあるので、そこは注意が必要かもですが、、、
例えば頸椎や腰椎のレッドフラッグについては、視覚的に目立つように赤色のマークと表の形式で列挙されています。

このように、見逃してはいけない部分についてはかなり強調して書かれてはいます。
ただ、本文の中についてはよっぽどのもの(例えばその手技が患者の生命に直結するようなものなど)でない限りは特に太字で書かれていたりなどがあるわけではないため、その辺は注意が必要です。
レビューのまとめ
- 言語的には比較的シンプルで読みやすく、言語の壁が理解の障壁になることはない(ある程度英語のの論文が読める人であれば)。
- 内容は包括的で網羅的であり、比較的体型だっている。ただし実臨床に直結する「攻略本」的なものではないため、実際の現場での評価のレベルアップを図るためには当然現場の経験は必要
- 図や表、写真が多いため視覚的に理解しやすい。
- インプットが終わったら、ある程度内容をアウトプットして自分の中で整理することが推奨される。
繰り返しているように、運動器の評価を極めたいのであれば非常に良い本になると思います。
ただし、例えばアスレティックトレーナーの方がスポーツ現場での評価を学びたいのであれば、別にこの本でなくとも良いかもしれません。
例えばChad Starkeyによる”Examination of Orthopedic & Athletic Injuries“(F.A. Davis)はアスレティックトレーナーが知っておくべきスポーツ現場での評価や初期対応について記述されています。
この本に関連するトピックについて
事前に把握しておきたい知識
解剖・運動については理解しておいた方がよいでしょう。前述した『キネシオロジー』などがオススメできます。
また、具体的な整形外科疾患の病態・整理についてもある程度理解できていた方が良いかと思います。同時並行でも良いかもしれないですね。
このトピックについては例えば『標準整形外科学』、具体的な病理学的知識については”Goodman and Fuller’s Pathology“などが推奨されます。
余談ですが、日本語で読める理学療法士などの医師以外の医療職にとっての病理学の成書ってないんですかね。
レファレンスとして使いたいので、教科書以上医師の専門書ほど詳しくはない、みたいな本が欲しいんですけどね、、、
評価に関連するトピックに関する知識
この本は運動器の評価について書かれた成書なので、治療やリハビリテーションについては一切書かれていません。
ので、評価からの治療につなげるためには別の成書が必要になります。
特に理学療法士の方にとっての治療の本はたくさんあるので、まあ書店に行って良さげなものを選べば良いんじゃないでしょうか。
洋書という点では、例えばリハビリテーションであれば”Clinical Orthopaedic Rehabilitation“、運動療法に特化した本であれば”Therapeutic Exercise; Foundations and Techniques“などは(個人的に所持しているという点もあり)オススメできます。
また、触診や画像評価、ゴニオメーターを用いた可動域検査、MMTについては理学療法士の方であれば学生の頃に購入した本があると思われます。
特に洋書という点で言えば、画像評価で”Fundamentals of Musculoskeletal Imaging“という本は非常に良いです。
教科書以上、医師用の専門書ほど細かくない本であり、理学療法士が画像を見て評価できるようにするために書かれた本らしく、PTが筋骨格系の画像を見る上で非常に有用です。
この辺の洋書についてもレビューを書いていきたいところであります。
この本で学んだあとは?
この成書は非常に網羅的に書かれているので、少し整理したいところではあります。
これには特定の部位の身体検査に関するレビュー文献などが有用です。
例えばですが、股関節については2022年にFAI, 関節唇病変、microinstabilityを評価するための身体検査に関するレビュー文献が出されています。

このようなレビュー論文を読むと、少し「なるほど、このテストはこういうタイミングで使うのか!」「実際はこのように見ていけば良いのか!」という風にイメージがしやすくなるかもしれません。
これらの文献に記述されているテスト法についてはおおよそ今回紹介した成書に記述されていますし、あるいはレビュー論文と行き来しても良いかもしれません。
ただ、やっぱり論文に触れる前には体系的に評価全体を俯瞰しておいた方が良いとは思います。
個人的には理解が段違いに感じました。
今回は評価に関する成書についてレビューしてみました。
次はまた別の面白い本を紹介したいと思います。



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