腰背部痛(LBP)は日本に限らず世界中で大きな問題となっていて、それゆえに色々なアプローチが考案されています。
腰背部痛を引き起こす要因は、生物医学的な観点で考えても非常に多様であり(e.g. 椎間板、椎間関節、筋筋膜性、etc…)、したがって単一のプログラムに基づいて介入するというのは不可能です。
このような問題があるので、LBPに関しては特にマネジメントの道筋や基本的なガイドラインを示すために色々な分類法(classification system)が考案されています。
それは非常に多くあるのでその全てを把握することは難しいですが、世界的に有名なものに限ればその数は限られます。
今回はそのようなLBPの分類システムについて、代表的なものについて概観し、その有効性について考えてみたいと思います。
今回取りあげるのは以下のシステムです。
- Pathoanatomical Based Classification (PBC)
- Treatment Based Classification (TBC)
- Mechanical Diagnosis and Therapy (MDT)
- Movement System Impairment (MSI)
- O’Sullivan Classification System (OCS)およびCognitive Functional Therapy (CFT)
当然これ以外にも分類法はあって、それらにもメリットデメリットあるとは思います。
とはいえ、今回取りあげた上の5つの分類法は論文の中でも紹介されることの多いものであり、腰痛のマネジメントに関して勉強していれば少なくともどれか1つにはあたるものだと思います。
これらのうち、いくつかのシステム(例えばMSI)はLBPに限らず運動器に関する全ての身体分節について適用されるものではありますが、その点に関してはここでは除外し、LBPについてのみ紹介することとします。
各分類システムの概要
以下は各分類システムについて紹介した原著をベースに紹介しています。
以下で紹介する全ての分類システムに関する講習全てを筆者は受講しているわけではないので、その点はご了承ください。
あと、順不同です。
Pathoanatomical Based Classification (PBC)
日本語に訳せば分かる通り、この分類システムは腰背部痛についてその症状を引き起こしている器質的要因を特定することに焦点を当てたものであると言えます。
オリジナルの文献(Petersen et al., 2003)では、病理解剖学的視点をベースに次の12(13)のカテゴリーに患者を分類します。
- 椎間板(disc syndrome)
- 1a: Reducible
- 1b: Irreducible
- 1c: Non-mechanical disc
- 神経根の癒着(adherent nerve root)
- 神経根の絞扼(nerve root entrapment)
- 神経根の圧迫(nerve root compression)
- 脊椎の狭窄(spinal stenosis)
- 椎間関節(Zygapophyseal joint)
- Postural
- 仙腸関節(Sacroiliac joint)
- Dysfunction
- 筋筋膜性(Myofascial pain)
- 相対神経伸張(Adverse neural tension)
- 異常な疼痛(Abnormal pain)
- その他(Inconclusive)
基本的にはアップデートされたものでも基本的な分類に関しては大きく変化しているわけではなく、検査精度に関するエビデンスのアップデートを反映している部分が大きそうです。
アップデートされたものについては、例えばまず始めに疼痛が侵害受容性nociceptiveか神経障害性neuropathicか、はたまた中枢性感作central sensitizationか、といった感じで分類もされます。疼痛の3分類法を反映しているということでしょうね。
ただこれに関しては2020年ぐらいに国際疼痛学会がコンセンサスをアップデートしており、現在の疼痛分類は大きく①侵害受容性、②神経障害性、③痛覚変調性nociplasticとなっているため、その点に関しては別途アップデートが必要になるところではあります。

この分類法の名称を見てもらえれば明らかだとは思いますが、この分類システムはこれ以外の分類システムやコンセプトとの関連性が非常に強いのが特徴と言えます。
例えば椎間板のサブ分類、神経根の癒着、Postural、DysfunctionなどはおそらくRobin McKenzieによる分類システム(MDT)から借用しているでしょうし、また相対神経伸張adverse neural tensionについてはDavid Butler、筋筋膜性に関してはTravellとSimonsによるトリガーポイントのコンセプトを色濃く反映しています。
したがって、これらは色々な治療コンセプトを絡めて考えやすいというのは特徴かもしれません。
ただし、この分類システムの原著自体ではそれぞれのグループに関する治療については紹介されていないので注意が必要です。
Treatment-Based Classification (TBC)
これもまた名称が明らかにしているように、TBCは「どの治療法が最も奏功するか?」という観点から患者を分類するシステムとなります。
オリジナルの方法(というか2015年のアップデート以前のもの)は、この患者はこの治療法、この患者はこの治療法、といったように具体的に分けられていました。
具体的には、次の4パターンに分類されます。
- Manipulation: マニピュレーションを治療法として用いることで改善が図れるグループ
- Specific Exercise: 特定の運動方向をベースとしたエクササイズで改善が図れるグループ
- Stabilization: 安定性に対するエクササイズで改善が図れるグループ
- Traction: 牽引で治療することで改善が図れるグループ
Alrwailyによるアップデートでは、①まずリハビリテーションが適応になるのか、②適応になるのであれば、どのようなアプローチが必要になるのか、という二段階で患者を「トリアージ」するようになったのが大きな特徴として挙げられます。
リハビリテーションが適応であると判断される場合には、
- Symptom modulation……疼痛や症状の解消を優先するグループ
- Movement control……症状を引き起こす素因となり得るモーターコントロールの問題にアプローチするグループ
- Functional optimization……実生活への応用という観点からアプローチするグループ
という3つグループに患者を分けて進めていくことになります。
特にMovement controlに関しては重要な点であるのか、別の文献でさらに詳細に解説がなされています。
治療の方針を考えるという点では、この分類システムは有用かもしれません。
ただ、この知識に他のアプローチを組み込むことでより効果が最大化されるようにも思いました。
例えば”Symptom modulation”のフェーズに組み込まれた患者では、”directional preference”(症状が即時的に改善する運動方向)をベースとしたエクササイズなどが推奨されますが、この考え方に基づいて適切にマネジメントを進めるという点ではMcKenzieによるMDTのコンセプトについてもある程度理解しておく必要があるかもしれません。
したがって、治療の大枠を考える上ではこの分類システムは有効だが、実際のメソッドに関しては別途理解しておく必要はありますね。
僕のような学生や、あるいは経験が浅いセラピストの方であれば「何を知っておかなければならないか」という点を把握する上でも役立ちそうだと感じました。
Mechanical Diagnosis and Therapy (MDT)
いわゆるMcKenzie法として知られているやつですね。研究レベルでもその効果について非常に多く研究されています。
患者を以下の4つのカテゴリーに分類し、それぞれについてアプローチを進めていきます。
- Derangement syndrome
- Dysfunction Syndrome
- Postural Syndrome
- OTHER
これについては既に日本語で紹介されている文献があるので、そちらを参照すると良いでしょう。
このコンセプトは、特に腰背部痛に関しては様々な重要な概念があるため、ぜひ一度読んでおくと良いのではないかと感じます。例えば、
- Directional preference
- Centralization/Peripheralization (中心化・末梢化)
などはderangement syndromeに対するマネジメントを考える上で極めて重要なコンセプトとされます。
腰背部痛に関する2012年のLBP1では、特にこの2つのコンセプトに基づく介入が推奨グレードAと比較的高いレベルでの推奨がされていました(2021年にアップデートされたガイドライン2では特に言及されていませんが、、)
MDTはTBCの特に”Symptom modulation”におけるフェーズでのマネジメントと親和性が高いように感じます。
Movement System Impairment (MSI)
Shirley Sarhmann氏によるものであり、疼痛などの症状を増悪させる運動方向やストレスなどに基づいて患者を分類するものです。
腰背部に関しては、以下のように分類します。
- 回旋-伸展症候群(Rotation-Extension syndrome)
- 伸展症候群(Extension syndrome)
- 回旋症候群(Rotation syndrome)
- 回旋-屈曲症候群(Rotation-Flexion syndrome)
- 屈曲症候群(Flexion syndrome)
※日本語版を読んでいないのでもしかしたら日本語訳が違うかもです。その辺はニュアンスを感じ取っていただけると、、、
病理運動学モデル(pathokinesiological model)、運動病理学モデル(kinesiopathological model)などがMSIにおける重要なキーワードであり、これについても既に和文での紹介がなされています。
運動の方向をベースに考えるというのはMDTと共通していますが、MSIでは病理解剖学的視点についてはあまり重視せず、様々な運動検査を行って、それに対する症状の起こり方などから分類を進めていくことが特徴であるように思われます。
このMSIに関するコンセプトは、腰背部痛に適用するかどうかにかかわらず丁寧にしっかり理解しておくのが良いと思います。
特にSahrmann氏によって紹介されている”Movement System“という考え方は、ヒトの運動について指導する全ての専門家が理解しておくべきものであると強く感じます。
このMovement Systemという単語は、APTA(アメリカ理学療法士協会)のビジョンステートメントにも紹介されるものであり、まさに理学療法士を理学療法士たらしめる「アイデンティティ」であるのだと思います。
したがって、このコンセプトに関してはマスターはせずとも、一通り概念自体はある程度理解しておくのが良いのではないでしょうか。

特に『続・運動機能障害症候群のマネジメント』の最初の方の章に載っている基本的なコンセプトに関する解説は一読の価値ありです。
O’Sullivan Classification System(OCS)およびCognitive Functional Therapy (CFT)
これは他の分類システムとは少し毛色が異なります。
というのも、特にCognitive Functional Therapy(CFT)という点では、そもそもこれは患者を「カテゴライズする」というものではないからです。
そもそもなんで2つの名称が並んでるのか?という話からですが。
元々いずれもPeter O’Sullivan氏によって考案されたもので、O’Sullivan Classification System(OCS)は2005年に発表された以下の論文がベースとなって考えられたものです。
OCSは他の分類システムと異なり、腰背部痛について生物心理社会モデル(いわゆるBPSモデル)をベースに分類を進めていくものでした。
しかし、2018年に発表された論文で、同氏は新たにCognitive Functional Therapyというコンセプトを提案します。
これについては、筆者は「分類」という考え方を棄却し、「CFTは腰背部痛障害に関するクリニカルリーズニングについてのコンセプトである」としています。
Attempts to deal with complexity such as through classification and subgrouping systems has been criticized for being unidimensional, reductionist and failing to reflect the biopsychosocial nature of disabling LBP……
(私訳:(腰背部痛に関する)複雑性を、分類法やサブグループシステムといったもので対処しようとする試みは、一次元的で還元主義的なものであり、また腰背部痛障害の生物心理社会的な性質を反映していないとして批判されてきた)Cognitive functional therapy was developed as a flexible, integrated behavioral approach for individualizing the management of disabling LBP.
(Cognitive Functional Therapyは、腰背部痛障害のマネジメントを個別化するための、柔軟性のある、かつ統合的な行動的アプローチとして考案された)It uses a multidimensional “clinical reasoning framework” to identify key modifiable targets for management on the basis of careful listening to the individual’s story and examining the individual’s behavioral responses to pain.
(CFTは、患者の話を注意深く聞き、個々の疼痛に関する行動的な反応を検査することを基盤としたマネジメントを行うために必要な「修正可能な要素」を特定するためのクリニカルリーズニングに関する多面的なフレームワークである)
※意訳です
したがって、CFTはこれまでのコンセプトのように「この所見があるときはこのパターンで、こういう治療をする」という指針を示すものではなくて、LBPという障害とそれを抱えた個人をどのように見るか?という点にフォーカスを当てるものであるといえます。
実際のCFTの進め方に関する内容は原著を参照していただくのが良いかと思いますが、大きく以下の3段階に分けて進めるとされます。
- 疼痛に関する理解を深めるフェーズ(Making sense of pain)
- 疼痛や恐怖をもたらす運動への段階的な暴露(Exposure with control)
- 生活習慣の変化(Lifestyle change)
この視点はすごく大事だとは思いますが、じゃあこれが外来のリハビリテーションという環境でどこまで適用できるか、という点は考慮しなければならないかと思います。
実際の介入としてこのプロセスを踏むというより、普段行っている介入の中にこのような心理社会的側面も組み込めるように考えていく、というのが現実的な落とし所のようには感じます。
分類システムに関するエビデンス
上述したような分類システムの有効性や共通点・相違点などについて扱ったレビューは多くあります。特にMDTに関しては非常に多くの文献が発表されています。
最も重要な(というか出発点として読んでおくべき)文献として,2021年に発表されたAPTAによる腰背部痛のマネジメントに関するガイドライン[2]が挙げられるでしょうか。
そこではこのような分類システムについて、
- 理学療法士は、急性腰痛患者における疼痛や機能障害の軽減のためにTBCを用いてもよい。(推奨度B)
- 理学療法士は、急性腰痛患者における疼痛や機能障害の軽減のためにMDTを用いることができる。(推奨度C)
- 理学療法士は、慢性腰痛患者における疼痛や機能障害の軽減のためにMDT、リスクの層別化(prognostic risk stratification)、PBCを用いてもよい。(推奨度B)
- 理学療法士は、慢性腰痛患者における疼痛や機能障害の軽減のためにTBC、CFT、MSIを用いることができる。(推奨度C)
と推奨しています。
ざっくり言えば、「急性腰痛に関してはTBCやMDTを使ってもいいかもね」「慢性腰痛に関してはMDT、PBC、リスクの層別化に基づくアプローチ、TBC、CFT、MSIを使ってもいいかもね」という感じですかね。
この分類システムについて、Karayannisら3はそれぞれの分類システムに基づく分類が、他の分類システムとどのような関係を有しているか、という点を調べています。
それによれば、例えば特定の分類システムで予後不良であると判断される患者でも、他の分類システムではより細分化したカテゴライズがなされ、別の有効なアプローチを行うことが出来る可能性があるなど、各分類システム間での「協働」が有効になる可能性を示唆しています。
一方で、近年のシステマティックレビューでは、これらの分類システムは必ずしも臨床的に意義のある効果をもたらさないと結論づけています。
Tagliaferriら4は分類システムを用いた介入と分類をしない介入を比較すると、介入終了時点での疼痛強度の軽減に関しては分類システムを用いた介入での優位性があるものの、その差に関しては臨床的に意義のある差には達しておらず、またエビデンスの確実性としても非常に低いと結論づけています。
また、同氏がviewpointとして発表した解説論文5において指摘されているように(そしてCFTの文脈でO’Sullivanらも指摘しているように)、これらの分類システムはしばしば腰背部痛の多面的な性質の一部分にのみ焦点を当てることになり、一つの分類システムを単一の「指針」として用いることは重要な問題を見落とす可能性にもつながるとも言えます。
また、これらの分類システムを適切に運用しようとすると必然的にセラピスト側もトレーニングが必要になり、そのコストに関しても考慮されなければならないと指摘しています。
私見
個人的には、分類システムは評価・治療とそれを導くクリニカルリーズニングに一貫性を持たせるという点では分類システムはひとつの有効な指針になり得ると考えています。
ただ、前述したほとんどの分類システムはバイオメカニクス的側面を重視しており、心理社会的側面に関してはあまり重視していない印象を受けます。
「群盲象を評す」と言いますが、おそらく一つの視点に固執しすぎるとこのような象の鼻だけを触って「これは蛇だ」と解釈をしてしまうという現象に陥ってしまうんでしょうか。

そもそも分類システムは腰背部痛の多様性を考慮して考案されたものであるのに、多様性を考慮したシステムに固執しすぎると結局のところ腰背部痛の多様性を見落としてしまうというのは逆説的ではありますが。
個人的に面白いなーと思ったのが、前述のKarayannisら[3]のレビューの末尾で紹介されていた、「運動を修正して評価するプロセス(MSI, OSC)」と「反復運動に対する反応を評価するプロセス(MDT, PBC, TBC)」の2つに基づいて患者を評価するという「統合評価モデル」integrated assessment modelというものです。
このように複数の分類システムを組み合わせると、前の分類システムでは対応が難しかった腰背部痛患者に対してまた別の視点で評価を加えることで、異なったアプローチを導くことが出来るかもしれません。
とは言っても、それをやろうと思うとその2つのアプローチについて精通しなければいけないので大変ではありますが。。
分類システムに固執しすぎて、患者に分類を当てはめるのではなく分類に患者を当てはめてしまわないように気をつけなければいけないなーと感じたところです。

ちなみにですが、分類システムについて勉強してみると、腰背部痛のマネジメントについて「あー、こういうことも知らないといけないのか、、」という学びを得られるのでオススメです(笑)
参考文献
- Delitto A, George SZ, Van Dillen L, et al. Low back pain: Clinical practice guidelines linked to the international classification of functioning, disability, and health from the orthopaedic section of the American physical therapy association. J Orthop Sports Phys Ther. 2012;42(4):A1-A57. doi:10.2519/jospt.2012.42.4.a1 ↩︎
- George SZ, Fritz JM, Silfies SP, et al. Interventions for the Management of Acute and Chronic Low Back Pain: Revision 2021. J Orthop Sports Phys Ther. 2021;51(11):CPG1-CPG60. doi:10.2519/jospt.2021.0304 ↩︎
- Karayannis NV, Jull GA, Hodges PW. Movement-based subgrouping in low back pain: synergy and divergence in approaches. Physiotherapy. 2016;102(2):159-169. doi:10.1016/j.physio.2015.04.005 ↩︎
Tagliaferri SD, Mitchell UH, Saueressig T, Owen PJ,Miller CT, Belavy DL. Classification Approaches for Treating Low Back Pain Have Small Effects That Are Not Clinically Meaningful: A Systematic Review With Meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2022;52(2):67-84. doi:10.2519/jospt.2022.10761 ↩︎- Tagliaferri SD, Owen PJ, Miller CT, Mitchell UH, Ehrenbrusthoff K, Belavy DL. Classifying nonspecific low back pain for better clinical outcomes: Current challenges and paths forward. J Orthop Sports Phys Ther. 2023;53(5):239-243. doi:10.2519/jospt.2023.11658 ↩︎



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