以前、ジャンパー膝(膝蓋腱障害)のリハビリテーションについて書きました。
ジャンパー膝のような腱障害において、「炎症」反応が必ずしも生じているわけではないというのは少しずつ一般的になってきています。
では、何が腱を痛くするのか?あるいは、なぜ「腱が痛い」と感じるのか?
この問いについて、腱障害を起こしている腱で何が起きているのかという側面から考えてみます。
腱障害の組織病理
正常な腱は60%以上がI型コラーゲンで構成されており、おおよそ並列にコラーゲン線維が配列されていることで動作に伴う力学的エネルギーの貯蔵と放出を繰り返しています(Standring et al., 2021)。
腱は負荷がかかることでそれに適応するように反応を起こしますが(腱のメカノレスポンス)、それが生理的に「正常」な範囲を逸脱していると(過剰な負荷や極端な負荷の減少など)、腱は病的な適応を引き起こします。

図はBenage et al. (2022)による。
生理的に正常な負荷が加わった際、腱のECM上に存在するTGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)はSmad2/3経路と呼ばれる一連のカスケードを通じて、Scleraxis(Scx)、Mohawk(Mhk)、Tenomodulin(Tnmd)といったシグナル伝達因子によってプロテオグリカンやコラーゲンの産生といった作用が生じて腱の恒常性が保たれます(Benage et al., 2022)。
一方、過剰な負荷が加わるとTGF-βが過剰に反応し(いわゆる炎症反応の一環として)、そこから誘発されるインターロイキン1(IL-1)や腫瘍壊死因子(TNF-α)、グルタミン、血管内皮増殖因子(VEGF)、サブスタンスPといった物質が腱におけるECM退行と腱の病的変化を引き起こします(Ibid.)。
これらのシグナル伝達物質は、血管新生や神経の内方成長に関与しており、結果としてこれが疼痛を引き起こしていると考えられています。
最終的に、変性した腱の特徴としては通常に見られるような白い外観を失い、コラーゲン線維の配列もバラバラかつ疎になり、さらにコラーゲン線維もIII型コラーゲンが多くなる、というものが挙げられます(Scott et al., 2015)。

図はScott et al. (2015)より。
神経的病理の観点から見る
Ackermannらは、腱障害の疼痛は血管新生とは関連せず、むしろ神経の内方成長が影響していると指摘しています(Ackermann et al., 2023)。

図はAckermann et al. (2023)による。
本来、腱はその周辺構造(エピテノンやエンドテノン)のみが神経支配を受けており、腱の内部に神経は通っていません(Bordoni et al., 2023)。
しかし腱障害の腱では、神経成長因子(NGF)や脳由来神経栄養因子(BDNF)の作用によって神経の軸索が腱の内部にまで延長されます。
同時に分泌される神経炎症メディエーター(グルタミンやサブスタンスP)は免疫機構(特にマスト細胞)やテノサイト、末梢の神経終末を活性化させることで、これらの分泌がさらにサブスタンスPやNGFといった疼痛受容体の上方制御に関与する物質の分泌を惹起する……というサイクルをたどります。
サブスタンスPやグルタミンは末梢性感作(疼痛刺激の閾値が低下し、痛みを感じやすい状態に入ること)に作用するため(Sluka, 2016)、これが腱の痛みの知覚に影響している可能性が考えられています。
腱障害に対するグルタミン酸のさらなる影響
グルタミン酸は腱障害の腱においてアップレギュレートされている可能性が高い(すなわち多く発現している)と指摘されていますが(Wasker et al., 2023)、この物質はただ疼痛感受性を高めるだけでなく、腱の変性のプロセスにも関与している可能性が指摘されています。
Spangらの研究では、腱障害を有するヒトの腹内側アキレス腱の切除術後、その組織片と培養した足底腱由来細胞をグルタミン酸などに暴露した時にどのような反応が生じるかを調べています(Spang et al., 2017)。
この研究では、採取された腱と培養された腱由来細胞ではグルタミン酸に対する免疫反応が見られたのとともに、グルタミン酸やNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)で刺激することでScx(Scleraxis)の発現が有意に減少したことが示されています。

図はSpang et al. (2017)による。
Scxは腱の正常な成長に重要な役割を果たすシグナル伝達因子であるため(Nichols et al., 2018; Gumucio et al., 2020)、この因子の発現低下は腱のメカノレスポンスの結果としてのリモデリングに影響を及ぼす可能性があります。
簡単に言ってしまえば、腱障害によってグルタミン酸濃度が増大すると、それが結果として腱の成長や修復にも悪影響を及ぼすのではないか?ということですね。
この点についてさらなるメカニズムの解明が進むと、腱障害の痛みに対するアプローチがより明確になる可能性があります(Dean et al., 2017)。
病理学的変性と疼痛の関連
解剖学的には明らかに変性している腱でも、痛みを伴わないということもあります。
Cookらによる腱障害の「連続体モデル」continuum modelは、病的な状態にある腱の多様な状態を説明するために考案されたモデルであり(Cook & Purdam, 2009; Cook et al., 2016)、このモデルは介入を考える上でも非常に有用であると思われます。
介入に関してはここでは触れませんが、このモデルによると腱障害はreactive、tendon dysrepair、degenerative tendinopathyという階層的な関係にあると提唱され、その各段階に応じて介入は変化すると指摘されます。
ここで、例えばdegenerative tendinopathyの段階であっても、
①疼痛も機能不全もある
②疼痛はあるが機能不全が残存している
③疼痛も機能不全もない
という3段階があるわけです。

同じdegenerative tendinopathyであっても(図最下段)、機能不全の有無や疼痛の有無によってその介入の方針は異なる。
図はCook et al. (2016)による。
ここで、病理学的に問題があるのに(構造的にはdegenerative tendinopathyに当てはまるのに)疼痛がない、という患者においては、末梢/中枢性の感作がほとんど生じていなかったり、侵害刺激の受容体活性化が不十分である可能性などが考えられています(Cook et al., 2016)。
重要なことは、腱障害においてはこのように機能不全と疼痛、構造的異常が密接に関連しているので、疼痛を取り除くアプローチだけをしてもその根本要因である機能不全にアプローチしなければ、また痛みは再発しうると認識する必要があるという点ですね(Cook et al., 2016)。
中枢性感作の影響
腱障害はどうしても痛みが持続しやすく、そうなると中枢レベルにも影響が生じてきます。
中枢性感作central sensitizationというのは中枢神経系の作用によって知覚される疼痛が増幅する現象であり、これは持続的な痛みに対する脳の可塑性に基づく(しばしば悪い意味での)適応であると考えられています(Latremoliere & Woolf, 2009; Harte et al., 2018)。
このメカニズムについては割愛しますが、この中枢性感作は腱障害(特に上肢)でも生じている可能性が指摘されています(Plinsinga et al., 2015)。
まとめ:腱障害の疼痛へどうアプローチするか
痛みにアプローチするだけでは不十分、とは言いましたが、それでも痛みに対してアプローチすることは極めて重要です。
運動療法に追加する形でいくつかの物理療法や注射療法、栄養療法が有効であることを示唆するエビデンスがありますが、それ以外にも痛みを生物心理社会モデルの枠組みで捉え、アプローチしていく必要もあるかもしれません(Edgar et al., 2022)。
そのような視点では、例えばpain neuroscience education; PNEのような患者教育も有効になるかと思われます(腱障害に対するPNEの効果に関するreviewとして、Escriche-Escuder et al. (2023)が挙げられます)。
これらの視点についてはまた別の機会に、気が向いたら書こうと思います。
References
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- Bordoni B, Black AC, Varacallo M. Anatomy, Tendons. [Updated 2023 Nov 9]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK513237/
- Cook JL, Purdam CR. Is tendon pathology a continuum? A pathology model to explain the clinical presentation of load-induced tendinopathy. Br J Sports Med. 2009;43(6):409-416. doi:10.1136/bjsm.2008.051193
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- Standring S, Gray H, eds. Gray’s Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. Forty-second edition. Elsevier; 2021.
- Wasker SVZ, Challoumas D, Weng W, Murrell GAC, Millar NL. Is neurogenic inflammation involved in tendinopathy? A systematic review. BMJ Open Sport Exerc Med. 2023;9(1):e001494. Published 2023 Feb 9. doi:10.1136/bmjsem-2022-001494




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