ハムストリング肉離れのリハビリで個人的に迷うのが、「どの段階になったらランニングを取り入れて良いのか?」というところなんですよね。
ということで、ここでは肉離れ後のランニング介入についていくつかの文献を参照します。
【今回の目標】
・ハムストリング肉離れの受傷機序について理解出来る
・ハムストリング肉離れのリハビリテーションのプロセスでのランニングプログラムの立て方を理解出来る
ハムストリング肉離れの機序について

ハムストリング肉離れは非常にメジャーなスポーツ傷害のひとつなので、受傷機転やリスクファクターに関して様々な文献が見つかります。
ここでは特に受傷機転として起こりやすいシチュエーションについて確認します。
Danielsson et al. (2020)は、ハムストリング肉離れのメカニズムについてのシステマティックレビューであり、ここではストレッチパターン、スプリントパターンの両方についての機序が解説されています。
これによると、
・ストレッチパターンでは過剰な股関節屈曲+膝伸展位が生じやすい
・スプリントパターンではスイング後期での過剰なハムストの伸張に起因して生じやすい
とされています。
スイング後期というのは走行周期で言えば80%程度のところに位置し、振り上げた脚を戻すようなタイミングと考えれば良いと思います。
スイングした後にその脚を引き戻す際、スイングした方向への力に対して股関節伸筋群のエキセントリックな活動によるブレーキをかけることで、脚の引き戻しを生じさせる、というイメージです。

ハムスト肉離れのリハビリテーションにおいて遠心性収縮の必要性が強調されるのは、このような点が一つ大きな要因であると考えられます。
一方、同文献中でDanielssonらは立脚初期における体幹の前傾位もハムスト肉離れと関連しているとしています。
ここでは体幹-骨盤部のコントロールが問題となるので、介入の方向性もまた少し変わる点に注意する必要があります。
要は同じハムスト肉離れでも、その受傷パターンによって介入を少しずつ変えていく必要があるということですね。
ハムスト肉離れに関する最近のCPG(clinical practice guideline)でも、エキセントリックなex、アジリティ、体幹安定化exの導入に対する推奨度はBとなっています(Martin et al., 2022)。
実際には、これらの介入の重要性は対象の選手によって少しずつ調整される必要があると考えます。
ランニングへの暴露をどう進めるか?
特にスプリントパターンでの受傷であれば、適切な強度・量のランニングを取り入れる事は必要不可欠です。
ここでは段階的に競技復帰するに当たって、どのようにランニングプログラムを進めていけば良いか、その推奨事項に関する文献を確認します。
Hickeyらによる推奨事項
文献: Hickey et al., Hamstring Strain Injury Rehabilitation. J Athl Train. 2022.
この文献ではメカニズムや評価すべき項目、介入などあらゆる推奨事項がまとめられています。
ここでは特にランニングプログラムについてピックアップします。
Hickeyらは、段階的に高速ランニングへと選手を暴露させていくことが最も重要な側面になることが多いとしたうえで、そのプログレッションについて3段階に分けて解説しています。

上のゲージは最大速度に対する速度のパーセンテージ、下3本の矢印は各段階における走行距離と強度を模式的に示しています。
例えばStage1であれば25%程度のスピードで20m + 50のスピードで60m + 25%程度のスピードで20m、という形で100mを走るというプログラムになります。
各段階に進むためのクライテリア(判断基準)は次の通りとされています。
Stage1の開始:歩行時痛が小さくなったら開始(NRS≦4)
Stage1→2への漸進:Stage1の50%フェーズが疼痛自制内で行える
Stage2→3への漸進:Stage2の80%フェーズを疼痛無く実施できる
Stage3に入ったら、真ん中の40mでのスピードを80%から少しずつ(目安で+5%ずつ)高めていき、最終的に100%スプリントまで持っていきます。
ここでのポイントは80%以上のスピードでのランニングは慎重に進めていくという点になります。
また、高速ランニングにおいてはセッション間でのボリュームのスパイク(跳ね上がり)が生じないように注意しなければいけません。
LolenzとDomzalskiによる推奨事項
文献: Lorenz D, Domzalski S. CRITERIA-BASED RETURN TO SPRINTING PROGRESSION FOLLOWING LOWER EXTREMITY INJURY. Int J Sports Phys Ther. 2020
この文献での推奨事項はハムストリング肉離れに限定されたものではなく、下肢傷害全般において重要となるスプリントへの復帰のガイドラインを提案したものになります。
とはいってもハムスト肉離れにおいても有効になると思われたのでこちらで紹介します。
*以下の図は全て上記文献より引用したものです。
Stage1

開始の基準:30分のウォーキング~ジョギングプログラムを4週間実施しており、四頭筋・ハムストの筋力が健側の70%以上であること。ホップテストで少なくとも健側の70%のパフォーマンスを発揮できていること。疼痛や腫脹がないこと。
このフェーズでは運動:休息比を1:3としながら、最大速度の50%の速度で無酸素性キャパシティを高めていくようにボリュームを多く実施します。
Stage2

開始の基準:ステージ1を完全にクリアしていること。全ての筋力や機能的テスト(片脚スクワットなど)で健側の80~85%程度のパフォーマンスを発揮できること。完全な膝屈曲PROMを有していること。
この段階では、まず膝の屈曲PROMが完全に出ているかどうかが重要になります。
このための評価としてはEly testを実施し、尻上がりが生じないか、エンドフィールは左右で等しく感じるかといった点を評価します。
Stage1に比べて強度を高めてボリュームが減ることが特徴です。強度は75%程度で、運動:休息比を1:5程度にします。この段階においては、この比率を遵守することが重要とされます。
Stage3

開始の基準:ステージ2をクリアしていること。全ての筋力・機能的テストにおいて健側の90%以上のパフォーマンスを発揮できること。疼痛や腫脹がないこと。
この段階ではほとんど100%の負荷で行っていきます。
運動:休息比は1:7になりますが、Step1と2においては選手が完全に回復するまで休息を取ります。
この段階では走行距離については競技やポジションの特性によって調整することが出来ます。
また、ステップ3・4において選手が規定の運動:休息比を維持できない場合、そのセッションは中止して残りの走行を低強度で行ったり前のステップに戻したりしつつセッションを完了させます。
ここでは選手がひとつのセッションを「終わらせる」ことに、(心理的な側面からも)重点を置くことになります。
今回のまとめ
ハムスト肉離れにおいて、スプリントなどの高速ランニングが要求される選手の場合、リハビリテーションにおいてもそのような活動を取り入れる事は必要不可欠です。
一方で、いい加減なプログラムは効果的でなかったりまたはそのセッションによる再受傷を引き起こしたりと不適切な適応をもたらします。
今回のようなガイドラインは、そのような反応を抑制し、適切に選手を競技復帰させる上で有効な指標のひとつとなると考えます。
当然全ての選手に上記のようなプログラムを実施させれば良いわけではなく、その前に選手のポジション特性や競技特性などを考慮して、必要な反復スプリント能力を向上させられるように個別性を意識してプログラムを組み立てる必要があるというのは言うまでもありません。
参考文献
- Danielsson A, Horvath A, Senorski C, et al. The mechanism of hamstring injuries – a systematic review. BMC Musculoskelet Disord. 2020;21(1):641. Published 2020 Sep 29. doi:10.1186/s12891-020-03658-8
- Hickey JT, Opar DA, Weiss LJ, Heiderscheit BC. Hamstring Strain Injury Rehabilitation. J Athl Train. 2022;57(2):125-135. doi:10.4085/1062-6050-0707.20
- Lorenz D, Domzalski S. CRITERIA-BASED RETURN TO SPRINTING PROGRESSION FOLLOWING LOWER EXTREMITY INJURY. Int J Sports Phys Ther. 2020;15(2):326-332.
- Neumann DA. Kinesiology of the musculoskeletal system: foundations for rehabilitation. 3rd ed. Elsevier;2017
- Martin RL, Cibulka MT, Bolgla LA, et al. Hamstring Strain Injury in Athletes. J Orthop Sports Phys Ther. 2022;52(3):CPG1-CPG44. doi:10.2519/jospt.2022.0301



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