Active Straight Leg Raise(ASLR)テストは、考案された当初は周産期の骨盤帯痛を有する患者における骨盤帯の異常可動性と症状の関連を見るためのテストとして紹介されていました1。
現在は健常者においても骨盤帯と下肢の間での荷重伝達能力を評価するための手段として用いられます2。
骨盤帯痛に関するガイドライン3においても、この検査は骨盤帯の機能的検査として使用することを推奨していますが(ただしエビデンスレベルは低め)、個人的にはこの検査は骨盤帯の機能障害を把握し、介入の方針を考える上でも非常に有効な検査であると感じています。

この検査は単に骨盤帯痛を見たい時以外にも、例えばハムストリングや内転筋の肉離れといった下肢筋損傷の介入を考える上でも有用な検査だと思います。
検査プロセス
手順
検査の方法自体は至ってシンプルです。
- 患者をベッド上で背臥位にし、一側の下肢を(膝伸展位のまま)5cm程度ベッドから挙上してもらう(原著[1]だと挙上する高さは20cmとしています)
- 検査者はその際の患者の努力感や動作の質について確認し、評価する
努力感の評価は、原著[1]では0~3の4段階で評価しています。
0→患者は全く制限を感じない
1→患者は上げづらさを訴えるが、検査者からは機能障害の徴候が認められない
2→患者は上げづらさを訴えており、観察結果からも機能障害の徴候を認める
3→患者は下肢を挙上することができない
実際のところ、現場で使う際にはここまで厳密にスコアリングしなくても良いかと思います。
左右を1回ずつ挙上してもらい、例えばどちらか一方で明らかに異常が認められるのであれば、左右で「どっちが重く感じるか」を報告してもらう、などの方法を取ることが多いです。
異常所見
Leeら[2]は、この検査における異常所見の例として次のものを挙げています。
- 骨盤帯の異常運動(側屈・回旋・傾斜):正しいASLRでは骨盤帯はいずれの方向にも動かない
- 胸郭の「締め付け」、側腹部の「しわ」:これらの所見は外腹斜筋の過活動を示唆する
- 下部肋骨の過剰な浮き上がり:これは内腹斜筋の過活動を示唆する
- 胸椎の伸展:これは脊柱起立筋の過活動を示唆する
- 腹部の膨隆:これは挙上時に過剰に「ブレーシング」(息こらえ)が生じていることを示唆する
- 骨盤帯に対する胸郭の側方変位
- 疼痛
圧迫による修正の影響の評価
上述したような異常所見が見られた場合、次に検査者は骨盤帯の特定の部位に徒手的な圧迫を加え、その状態でASLRを再度実施した際の症状の変化を確かめます。
それぞれの徒手的な圧迫は、動作中に生じうる筋活動による骨盤帯の圧縮作用を模倣していると考え、次の5パターンを検査します[2]。
- 左右のASIS:腹横筋下部水平線維と内腹斜筋の収縮による力を模倣する
- 左右のPSIS:腰仙部多裂筋と胸腰筋膜による力を模倣する
- 恥骨結合レベルで前方からの左右の圧縮:
内腹斜筋・腹横筋の最下部線維と協働する骨盤底前方部分や骨盤壁側筋膜の力を模倣する - 坐骨結節レベルで後方からの左右の圧縮:
後方の骨盤壁と骨盤底の作用を模倣する - 骨盤を通る斜め方向の力
そのほか、腹直筋離開を呈する患者では左右の腹直筋を白線に近づけるようにして症状が変化するかどうかを確かめることも行います。

個人的には、非常に有名な1,2を用いることが多いです。この2パターンは特別な機器を必要とせずにクリニカルリーズニングから介入までを考えることができるので、この圧迫による反応がそのまま治療の方針になり得ます。
テスト結果の解釈
圧迫によって症状が減弱した場合
圧迫の操作によって症状が減弱した場合、その圧迫が模倣している筋活動パターンが機能不全に陥っていることを示唆します。
例えば左右のASISの圧迫によって症状や徴候が改善した場合、それは内腹斜筋や腹横筋が適切に作用していないことを意味します。
このパターンは非常に有名なのでご存じの方も多いでしょう。
圧迫で症状が増悪した場合の解釈
一方で、必ずしも圧迫を加えたら症状が改善するということもなく、患者によってはむしろ挙げづらさが増すということも起こり得ます。
これは、その圧迫が模倣している筋活動のパターンが症状の誘発因子であることを意味します。
よくあるのは、左右のPSISを圧迫した時に症状が増悪するパターンです。
これは胸腰筋膜を通じたフォースクロージャー機構が過活動している場合に引き起こされ、この場合にはこれらのシステムに対するリリーステクニックが必要になると考えられます。

図: Willard FH, et al. J Anat. 2012;221(6):507-536. doi:10.1111/j.1469-7580.2012.01511.x
実際はここからもう少し病態を絞り込んでいく必要があります(どの筋が過活動しているのか、どの筋が機能不全に陥っていてどの筋がそれを代償しているのか、など)。
解釈に必要な運動学的知見のレビュー
ASLRの運動学に関しては、健常者・非健常者(仙腸関節障害、骨盤帯痛患者など)で多くの研究がなされています。
例えばBealesらの一連の研究4,5では、慢性骨盤帯痛患者と健常者での筋活動やそれに関連する腹腔内圧・胸腔内圧の変化について調べています。
主要な結果をまとめると、両者の間では次のような差異が認められました。
| 変数 | 健常者 | 慢性骨盤帯痛患者 |
|---|---|---|
| 腹斜筋の活性化 | 内外ともに同側性のtonic activation(特に内腹斜筋) | 患側挙上時の両側性のtonic activation |
| 動作時の前斜角筋の活動 | 動作中の吸気時のphasic activity | 半数以上の患者でtonic activityが認められる |
| 腹腔内圧 | 動作全体を通じて有意な変化を示さない | 患側挙上時の有意な増加 |
| 骨盤底の移動量 | 動作全体で有意な変化を示さない | 患側挙上時の有意な下降 |
骨盤帯痛患者に見られるこのようなブレーシング戦略は神経筋系による代償的な作用である可能性があるとされます。
しかし骨盤帯の安定性に対するブレーシングの効果は骨盤帯のフォースクロージャーほど最適なものではないとも指摘されており6、またIAPの増加は骨盤帯痛を引き起こしうる可能性すら指摘されています7。
ASLRの動作パターンでの疼痛誘発因子の一つとして、Mensら[1]は挙上側の骨盤における仙腸関節付近を中心軸とした前方回旋を挙げていますが、腹横筋の単独収縮は仙腸関節の剛性を高めてこの動きを防ぐ可能性があります[6]。

一方で、妊娠に関連して長期的に骨盤帯痛を有する患者を対象としたMensらの研究8では、腹横筋はむしろ過活動の状態にあるという観察結果が示されており、このようにLPHの機能不全を有している人が必ずしも同一の所見を呈しているわけではないという点には注意する必要があります。
このような患者では、おそらくASLR中に左右のASISに圧迫を加えたらむしろ症状は増悪すると考えられます。
Huらによる研究9では、この挙上側での骨盤の前方回旋の制動は、フォースクロージャーが成立している条件下であれば対側の大腿二頭筋長頭もその役割を担うという可能性が指摘されています。
すなわち、挙上する際に股関節屈筋群(大腿直筋や腸骨筋)が作用することで潜在的に生じうる挙上側での骨盤の前傾に対して、対側の大腿二頭筋長頭による対側骨盤の後傾が作用するということですが、当然これは骨盤帯が1つのユニットとして機能していなければ成立しません。
(仙腸関節を通して左右の骨盤帯が1つのユニットとして作用できない条件では、片方の寛骨の運動がもう一方に波及することはないと考えられるためです)
腹壁の筋群(腹直筋以外)はこのフォースクロージャーの作用に加えて、このような対側の大腿二頭筋の骨盤に対する作用を最適化するための土台を形成する役割も果たしている、ということですね。
このように、単純に片脚を挙げるだけの動作でも、その裏では様々な筋活動が協働しています。
これらの筋活動について十分な理解を深めることで、前述したような異常な動作パターンが見られた時に何が問題となるのかを把握することができるでしょう。
まとめ
ということで、今回は主にActive Straight Leg Raise(ASLR)テストについて、その方法と解釈、運動学的背景について簡単にではありますがまとめてみました。
文献やWebの記事などを参照してみると、圧迫を加えて症状減弱したなら、そのシステムを強化すれば良い!というのはよく書かれているんですが、「症状が増悪したらどう解釈するの?」という点についてはあまり見受けられなかった印象です。
Kiblerらは体幹の安定性について、3平面全てについて、かつ動的な安定性を評価すべきだとしていますが10、その点ではこのASLRは体幹(特に腰椎-骨盤-股関節複合体(LPHC))の安定性について評価すべき検査バッテリーの1つになると言えるでしょう。
ちなみに個人的には、このASLRに加えて、
- Active Hip Abduction Test(AHAbd)
- Prone Hip Extension (PHE)
の2つを加えることで、ある程度LPHCの機能不全について精査することができるように感じています。
AHAbdについては既に紹介していますが、PHEに関しても気が向いたらまとめてみようと思います。これも色々な操作を加えてその反応を確かめるという点でASLRと類似していて興味深いんですよね。
References
- Mens JM, Vleeming A, Snijders CJ, Stam HJ, Ginai AZ. The active straight leg raising test and mobility of the pelvic joints. Eur Spine J. 1999;8(6):468-473. doi:10.1007/s005860050206 ↩︎
- Lee D, Lee LJ, Vleeming A. The Pelvic Girdle: An Integration of Clinical Expertise and Research. 4th ed. Elsevier/Churchill Livingstone; 2011. ↩︎
- Vleeming A, Albert HB, Ostgaard HC, Sturesson B, Stuge B. European guidelines for the diagnosis and treatment of pelvic girdle pain. Eur Spine J. 2008;17(6):794-819. doi:10.1007/s00586-008-0602-4 ↩︎
- Beales DJ, O’Sullivan PB, Briffa NK. Motor control patterns during an active straight leg raise in pain-free subjects. Spine (Phila Pa 1976). 2009;34(1):E1-E8. doi:10.1097/brs.0b013e318188b9dd ↩︎
- Beales DJ, O’Sullivan PB, Briffa NK. Motor control patterns during an active straight leg raise in chronic pelvic girdle pain subjects. Spine (Phila Pa 1976). 2009;34(9):861-870. doi:10.1097/BRS.0b013e318198d212 ↩︎
- Richardson CA, Snijders CJ, Hides JA, Damen L, Pas MS, Storm J. The relation between the transversus abdominis muscles, sacroiliac joint mechanics, and low back pain. Spine (Phila Pa 1976). 2002;27(4):399-405. doi:10.1097/00007632-200202150-00015 ↩︎
- Mens J, Hoek van Dijke G, Pool-Goudzwaard A, van der Hulst V, Stam H. Possible harmful effects of high intra-abdominal pressure on the pelvic girdle. J Biomech. 2006;39(4):627-635. doi:10.1016/j.jbiomech.2005.01.016 ↩︎
- Mens JMA, Pool-Goudzwaard A. The transverse abdominal muscle is excessively active during active straight leg raising in pregnancy-related posterior pelvic girdle pain: an observational study. BMC Musculoskelet Disord. 2017;18(1):372. Published 2017 Aug 25. doi:10.1186/s12891-017-1732-9 ↩︎
- Hu H, Meijer OG, Hodges PW, et al. Understanding the Active Straight Leg Raise (ASLR): An electromyographic study in healthy subjects. Man Ther. 2012;17(6):531-537. doi:10.1016/j.math.2012.05.010 ↩︎
- Kibler WB, Press J, Sciascia A. The Role of Core Stability in Athletic Function. Sports Med. 2006;36(3):189-198. doi:10.2165/00007256-200636030-00001 ↩︎




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