「そこまで」、という点がミソです。全く必要ではないわけではないですし、当然中学1年レベルの英語に困難さを感じる場合には英語力がネックになるとは思います。
こんなタイトルを書いておきながら、実際はどれくらいの「英語力」(ここでは特にリーディング能力としておきましょう)が必要なのかはよくわからんです。
僕個人は高校レベルまではまあ平均値程度には習熟しているとは思いますが、別に英検1級持ってるとか、TOEICで900点取ってるとか、他人に示せるずば抜けた指標は特にありません。
ただそれでもある程度自分の専門分野であれば英語の論文は普通に読めますし、読解に苦労するとすれば語学力以外の要素がほとんどです(統計解析の内容だったり、そもそものバックグラウンドの話を理解していなかったり)。
じゃあ、結局専門分野の英語論文を読むのには何が必要なのか、という話を今回は少し。

筆者の専門(というか将来的に専門になるというか……)は主に運動器の理学療法とアスレティックトレーニングなので、それ以外のところにも全く同じ原理が当てはまるかは不明です。
リーディング能力はそこまで重要ではなさそう
さっそく、少し英語のレビュー文献から一部本文を引っ張って見てみます。
Of interest is the potential role for persistence of changes in back muscle structure and function after symptom resolution in LBP recurrence. Delayed DM (but not SM) activity has been reported during automatic control of spinal posture accompanying limb movements. The DM was recruited as an extensor rather than undergoing non–direction-specific recruitment (a characteristic interpreted to imply a role in the fine-tuning of segmental control), which suggests a change in function.
(訳注:DM = 深部多裂筋(deep multifidus)、SM = 浅層多裂筋(superficial multifidus))
Hodges PW, Danneels L. J Orthop Sports Phys Ther. 2019:49(6):464-476. doi: 10.2519/jospt.2019.8827
こう見てみると、少なくとも基本的な単語(専門用語は除く)、文型や文法という点ではそこまで難しいものはありません。
自分が大学受験をしたころ、早〇田大学の一般入試を受験したのですが、その時の英語の長文読解に比べたら基本的な文型、ワードばかりです。あれはマジで全く理解できんかった
ちなみにこれは「腰背部痛(LBP)と背部筋の形態変化」に関するレビュー文献なのですが、ざっと訳すと↓のような感じになります(拙訳です)。
興味深い点は、背部筋の形態と機能の持続的な変化が症状消失後にも腰背部痛(LBP)の再発に寄与している可能性があるという点である。
四肢の運動に付随する自動的な脊柱アライメント制御における深部多裂筋(DM)の活動遅延はこれまで報告されている。DMは非方向特異的な活性(分節的な制御を微調整する役割と解釈される特徴)ではなく伸筋群として動員されたことから、機能の変化が生じたことが示唆される。
恥ずかしながら、訳すと日本語が大分下手な感じになっていますが。
要はこの文章で言っている事っていうのは、
- 症状が消失した後にも背部筋の構造と機能の持続的な変化がLBPの再発に関係している可能性がある
- 深部多裂筋の活動遅延はこれまで報告されている
- (腰背部痛の既往がある患者では?)深部多裂筋が分節的制御の役割としてではなく、背部の伸筋群として動員されるようになる
ということなわけです。
こう考えると、文章の大要を掴むだけならそこまで難しい文章ではないですね。
大学受験の時みたいに正確に訳そうと思うとまあアレですが、別にそれは論文を読み解いて臨床に活きる知識を得るという点では本質ではないです。
(当たり前ですが大要をすっ飛ばしていい加減に文意を把握して良い、ということではないです)
必要なもの①:専門用語に関する語彙
ぶっちゃけ、専門分野の英語論文を読もうと思ったら何よりも大事なのが「その分野の専門用語の英語がわかるか?」という点だと思います。
例えば僕の専門(?)分野の運動器理学療法やアスレティックリハビリテーションでは、
- 解剖学的用語の名称(特に神経筋骨格系)
- 運動学的用語(e.g. 屈曲、内旋、滑り、並進)
- バイオメカニクス的用語
- 疾患名(e.g. 変形性膝関節症knee osteoarthritis)
- 評価や治療に関する用語(e.g. 自動運動、観血的治療、保存療法)
などの用語に関しては当たり前のように出てきますし、それを知っているか知らないかは読むスピードに非常に大きな差をつけます。
あと、これらの用語を知っているか知っていないかって、最近だとDeepLとかで翻訳した時の文章をちゃんと理解できるかどうかという点でも重要なんですよね。
例えば、脊椎の椎間関節を意味する”zygapophyseal joint”や”facet joint”という用語を、DeepLくんはまともに翻訳してくれません(2024年11月時点では)。

文献はこちらから
なので、翻訳を使いながら読むにしてもある程度専門用語の英語は知っておいた方が良いです。
例えば「ライフサイエンス辞書」などは、生命科学に関する用語を多く掲載してくれています。(あんまりピーキーなものは出てきませんが)
この専門用語の英語は無理くり覚えようとする必要はなく、特定のトピックに関する文献を読みあさっていれば何度も出てくるので自然と覚えることの方が多いです。
なので無理に覚えようとはせず、わからなければその都度調べるでも良いと思います。
そうしているうちに自然と頭に染みついてきます。
ちなみに、DeepLはたまに結構とんでもない超訳をしてくれたり、あとは文章をまるっとそのまますっ飛ばすこととかあります。
なので、サッとアブスト(Abstract)を眺めたいとか、そういう時にだけ使うのが良いと思います。
必要なもの②:バックグラウンドとなる知識
まあこれは言わずもがなでしょう。
背景知識がないトピックの論文を読んでいても、正直字面をなぞって脳内で日本語に翻訳するだけで一向に理解できないことの方が多いです。
この点については一次研究であればIntroductionの最初の方に書いてあるので、その辺を読んで「何それ??」ってなったら多分その文献を理解するための前提の知識が足りていないので、そこで引用されている文献を読んでみるとかする方が良いでしょう。
必要なもの③:統計や研究デザインに関する知識
個人的に一番ネックでありながら批判的吟味をする上で避けられないと感じているのがこの点です。
そもそも一次研究を理解する上では研究デザイン(前向き・後ろ向き・コホート・RCTなど)を理解していないと因果関係の解釈がごっちゃごちゃになったり、正確な批判的解釈ができなくなります。
また、統計解析などの数値に関する理解も必要になります。
例えばオッズ比を「〇倍の起こりやすさ」などと解釈してしまうとそれは誤った解釈になるわけです。
(この点ではリスク比の方が解釈しやすいんですけどね、とか。。。)
これに関してはもう別途勉強するしかないでしょう。
以下の2冊は個人的に良かった本です。統計や研究デザインの基礎を捉えるという点では良いでしょう。あらゆるデザインの研究を読むのに十分かと言われるとそうではないと思いますが、文献を読む上で必要レベルだとは思います。
必要なもの③:論文を読むという経験
逆説的なタイトルですが、論文は読んで理解するプロセスを何回も試行すると読むスピードが上がります。
これは英語に慣れてくるという話もそうなんですが、何よりも論文の「お作法」と言いますか、「この辺にこんな感じのことが書いてあるんだろう」みたいなアタリがつけられるようになるので、頭から端まで丁寧に字面をなぞらなくても大意を掴みやすくなります。
例えばIntroductionのセクションの最後のパラグラフ付近にはその研究の目的が書いてあることが多いとか、Limitationは特別に項立てされていなくてもDisgussionのセクションの最後の方に書いてあるだろう、とか。
論文に触れる機会を増やして、こういう通底している構成についてそれとなく理解できるようになると論文の大意と構造を理解するのが容易になるように感じます。
闇雲に読むのではなく、最初の10数本は丁寧に頭から読んだ方が良い
これは私見ですが、初めて英語論文を読むような場合には、近道を探そうとせずに素直に10本程度英語論文を頭から最後までじっくり読み通す、という経験をしてみるのが良いんじゃないか、と考えます。
この時には、最初は頭から分からない単語1つ1つ調べながら、他人が読んでも理解できるように丁寧に逐語訳を作っていくイメージで読み込んでいきます。
いわば、大学受験の勉強でよくやる英語の精読みたいなもんです。
本当に英語が出来る人はわざわざ英語を日本語に訳してから理解するのではなく、英語をそれ自体で理解できるようになっていますが、いきなりそのステップを目指すのは特に科学的な正確さが極めて重要になる論文講読というシチュエーションでは少しリスキーかと思います。
結局のところ、高い質である程度の量を読み込むというプロセスを経なければ読めるようにはならないと思うんですよね。
こういうプロセスを経ると、少しずつアカデミックな文章の典型的な形式とかお作法みたいなものが見えてくるので、少しずつ読めるようになってくると思います。
何度も言うように、文法や専門用語以外の単語レベルは決して高くないと思います(ただ、昔の論文だと非常に堅い表現が出てきたりします)。
じゃあどんな論文を読めば良いのか、という話
とは言っても、いきなりPubMedで狙った論文を探してそれを読み込むというのは難しいでしょう。
また、RCT(ランダム化比較研究)などのような一次研究はその研究デザインや結果の解釈などの厳格な解釈が必要になるため、特に英語論文という形式に馴れていない段階では語学的なハードルに加えてアカデミックな部分のハードルが加わることになるため厳しいものになります。
なので、個人的にはまず二次研究(特にナラティブレビューやCPG(診療ガイドライン))を読み込むのが良いんじゃないかと思います。
これらは難しい統計解析の話がそこまで多くなく(CPGはそうでもないですが)、いわゆる「教科書」的な感じで読める&実践にも比較的活かしやすいので、モチベーションを保つという点でも良い気がします。
例えば運動器理学療法や整形外科リハビリテーション、アスレティックリハビリテーションという観点では以下のようなジャーナルが比較的信頼できるリソースとして活用できます(比較的、というのと、個人的な推奨であるという点は注意して下さい)。
- British Journal of Sports Medicine (BJSM)
- International Journal of Sports Physical Therapy (IJSPT)
- Journal of Orthopaedic Sports Physical Therapy (JOSPT)
- Journal of Athletic Training (JAT)
- Sports Medicine
- The American Journal of Sports Medicine (AJSM)
- The Journal of Strength and Conditioning Research (JSCR)※
※JSCRはストレングス&コンディショニングに関するジャーナルではありますが、運動器のリハビリテーションにかかわる人も読んでおいて損のないトピックも多いので列挙しています。
もう少し裾野を広げると、Physical Therapy(PTJ)も理学療法に関する様々なガイドラインを掲載していたりするのでオススメですかね。
特にJOSPTやJATはそれぞれ運動器・整形外科理学療法、アスレティックトレーニングに関連する機関の機関紙という位置づけでもあるため、まあ読んでおいて損はないものが多いです。
(何よりもフリーアクセスの論文が多いのも良いですね)
自分の気になるトピックについてPubMedで検索してみても良いですが、上で挙げたようなジャーナルの公式ページで自分の気になるトピックについて調べてみるのも良いんじゃないかと思います。
あとは、アメリカ理学療法士協会公式によるCPGは、公式のページから検索することができます。
また、PEDroというサービスも比較的簡単にリソースを検索することができます。

それ以外にも、Physio Meets ScienceというSNSアカウントは色々なトピックの論文を取りあげているので、それをフォローしておくとオントレンドなトピックに関する論文を読むことができます。
「SNSで勉強する」などというのは(少なくともアカデミックな領野という点では)愚かな発想ではありますが、このように色々な論文を紹介してくれるアカウントは色々な論文を目にして、たまにそれを読んでみるという機会を得る点で有用でしょう。
必要なもの(おまけ):読解力
身も蓋もない話をしてしまえば、英語の論文を読み解く上では読解力が不可欠なので、少なくとも母語で書かれた文章を読んで適切に理解できない人(長い文章を理解するのが苦手とか、書いてないことを勝手に読み解いて解釈しちゃう、とか)は英語の論文を読んでも理解できないでしょう。
なので、この意味では最初は日本語の論文を読んでアカデミックな文章に馴れておくというのも良いかもしれません。
あまり和文は読まないのですが、例えば徒手理学療法や日本アスレティックトレーニング学会誌などは日本語で書かれており、さらにフリーアクセスで読める論文であるためオススメかなーと思います。これも「総説」と書かれた論文を読むと、そのトピックに関する最新のトレンドを掴むことができます。
結局はどれだけ読み込む経験を積めたかがキモ
英語の医学論文を読むのに必要な能力は何か、という話を考えてみました。
結局のところ、どれだけ論文を読み込んだかというところが重要かなーと考えています。
これは雑に1000本読めばいいというわけではなく、文章を丁寧に理解し、意味を過不足なく解釈し、必要に応じて参考文献も参照する、という丁寧なプロセスを何回も何回も踏んでいくことで、少しずつ読めるようになっていくのではないか、ということです。
今時はAIなどで複数文献をまとめてレビューするとかそういうこともできますが。(例えばNotebookLMなどはそういうことができます)
英語の成書を読めるようにするという意味でも自分の力で英語の文献を読み解く経験をしておくのは良いんじゃないかと思います(文献なら無料のものも多いですしね)。
英語で書かれた文献が論文の90%を占めるとか昔どっかで見たような気がしますが、実際英語の文献が読めるようになると収集できる情報量は格段に増えます。
現代は情報へのアクセスは簡単にできるので、日本語に限らず質の高い情報に直接アクセスできるようになると、実践者としても他の人と差別化できるのではないかと思います。




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