整形外科の術後リハに関わっていると、「合併症のリスク管理」は避けて通れないテーマです。
中でも静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism; VTE)は、見逃すと命に関わりうるという意味で、最優先で押さえておくべきものの一つだと思います。
そして見落とされがちなのが、このVTEへの対応が、PTにとって「気づけたらラッキー」ではなく明確な責務(responsibility)として位置づけられているという点です。
今回は、この術後急性期のVTE(DVT/PE)スクリーニングについて、PTの視点から整理してみたいと思います。
この記事の要点
- VTEは術後急性期リハにおいてPTが見逃してはいけない重要な合併症である
- DVTは下肢の腫脹・疼痛・熱感・圧痕性浮腫など、PEは呼吸苦・胸痛・頻脈・失神・喀血などを手がかりに疑う
- Wells criteriaなどの臨床予測ルールは、PTが診断するためではなく、医師・看護師へ根拠をもって共有するための共通言語である
- VTEは退院後にも発生しうるため、急性期だけでなく回復期・外来でもリスク管理が必要である
- 予防では、早期離床、活動性の維持、下肢運動、機械的予防、抗凝固療法の把握が重要になる
VTEのスクリーニングはPTの「責務」である
VTEへの対応は、「たまたま気づけたら対応する」という性質のものではありません。
APTA(米国理学療法士協会)のガイドラインでは、VTEに関するPTの責務として、次の5つが明記されています(Hillegass et al., 2022)。
- VTEを予防する(prevent VTE)
- 上肢・下肢のDVTおよびPEを評価する(assess for UE and LE DVT and PE)
- これらの患者の安全な離床(mobility)開始に関する意思決定に、医療チームの一員として貢献する(contribute to the health care team in decision-making)
- 患者を教育し、意思決定を共有する(educate patients and share decision-making)
- PE・DVTの長期的な合併症を予防する(prevent long-term consequences)
こうして並べてみると、VTEは「予防・評価・離床判断・教育・長期合併症の予防」という一連のプロセス全体にPTが関与することが求められているのがわかります。
ですから、「PTはたまたま血栓に気づきやすい立場にいる」というより、「PTは気づかなければならない立場にいる」と捉えたほうが、実態に近いと思います。
術後の患者さんをベッドサイドで毎日見て、実際に動かして、下肢の状態を間近で観察している——その立場にいる以上、VTEを拾うことはそもそも責務に含まれている、というわけですね。
「退院したから安心」ではない
そしてもう一つ強調しておきたいのが、VTEは入院期間中だけの問題ではないということです。
術後DVTの診断タイミングを見てみると、整形外科に限らず術後4週以内に診断されることが多いと報告されています(Singh et al., 2023)。
ここで引っかかるのが、整形領域では術後1〜2週間で退院してしまうことも珍しくないという点です。つまり、リスクがまだ高い時期に、患者さんはすでに病院を出ている、ということが普通に起こりうるわけですね。
もう少し具体的な数字も見てみます。
少し古いですが有名なWhiteら(1998)の研究では、VTEの診断時期の中央値はTKAで術後7日、THAで術後14日と報告されています。
特にTHAでは、退院後に診断されるケースも少なくないことが示唆されます。
さらにLapidusら(2013)のTHA患者を対象とした研究では、診断時期の中央値は術後26日目。
しかも、DVTの85%、PEの80%が退院後に診断されていたと報告されています。
こうしたデータを踏まえると、VTEのスクリーニングは、入院中の病棟スタッフだけが担えばよい仕事ではないことがわかります。
回復期や外来をフィールドにしているPTこそ、むしろVTEのリスクが残っている患者さんと向き合っているとも言えるくらいで。
「自分は急性期じゃないから大丈夫」、ではないよ!というのがキーポイントですね。
そもそもVTEとは
VTEは、大きく深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)と肺塞栓症(pulmonary embolism; PE)に分けて考えられます。
ざっくり言えば、
- DVT……深部の静脈にできた血栓
- PE……その血栓が飛んで、肺の血管を詰まらせたもの
という関係で、PEはしばしばDVTの「続き」として起こります。だからこそ、DVTの段階で拾えるかどうかが大事になるわけですね。
なぜ術後に起きやすいのか
血栓ができる仕組みは、有名なVirchowの三徴(Virchow’s triad)で説明できます。
- 血流の停滞(stasis)
- 血管内皮の損傷(endothelial injury)
- 血液の高凝固性(hypercoagulability)
この3つが重なったとき、血液はかたまって血栓になります。

術後というのは、まさにこの三徴が揃いやすい状況です。手術による血管・組織の侵襲(内皮損傷)、術後の不動・安静(血流停滞)、そして手術侵襲そのものによる凝固系の亢進(高凝固性)……と、見事に役者が揃ってしまうわけですね。
特に下肢は、重力の影響に加えて、静脈の還流が筋のポンプ作用に依存しているという構造的な事情があります。だから術後で下肢を動かせない状態は、DVTにとって格好の温床になります。
どんな所見が出るのか
深部静脈血栓症(DVT)の場合
典型的には、片側性の下肢の腫脹・疼痛・熱感・圧痛・発赤・圧痕性浮腫です。
一般的にDVTは片側性ですが、両側性のDVTというのがあり得ないわけでもないので注意が必要です。
なお、稀に上肢にもDVTは起こります(UE-DVT)。
これは中心静脈カテーテル(CVC/PICC)やペースメーカーが入っている患者さんで特に注意が必要です。
上肢DVTは無症候のことも多いのですが、起こるときは下肢と同様、腫脹・疼痛・圧痕性浮腫といった所見が出ます。
肺塞栓症(PE)の場合
PEの主要症状は、次の4つに集約されます。
- 呼吸苦(dyspnea)
- 胸部痛(chest pain)
- 前失神・失神((pre)syncope)
- 喀血(hemoptysis)
「この患者さんはhigh-riskか?」を見る
VTEは、起きてから対応するより予防とリスク評価が圧倒的に重要です。
まずは、カルテや問診から「血栓を作りやすい土台があるか」をざっくり拾うところから始めます。最低限おさえたいのは次の5点でしょうか。
- VTE既往(DVT/PEの既往があれば最重要)
- 最近の手術・外傷・臥床(特に術後、骨折後、3日以上の活動性低下)
- 活動性の癌/癌治療中(化学療法、放射線、中心静脈カテーテルも含む)
- 血栓性素因(thrombophilia)(既知のもの、家族歴、若年での血栓歴)
- その他の増悪因子(高齢、肥満、感染、エストロゲン系のホルモン治療、心不全・呼吸不全など)
ちなみに、VTE発症リスクに関するスクリーニングツールの一つにPadua Prediction Scoreがあります。
| 評価項目となる因子 | スコア |
|---|---|
| アクティブな癌 | 3 |
| VTE(表層静脈を除く)の既往 | 3 |
| 移動性の低下 | 3 |
| 既知の血栓形成傾向 | 3 |
| 直近(≤1M)の外傷/手術 | 2 |
| 高齢者(≥70) | 1 |
| 心不全 and/or 循環器不全 | 1 |
| 急性心筋梗塞 or 虚血性脳卒中 | 1 |
| 急性感染症 and/or RA | 1 |
| 肥満(BMI≥30) | 1 |
| 現在進行中のホルモン療法 | 1 |
実際にこのツールに基づいて評価することはなくても、「こういう患者ではVTEが起こりやすいんだな……」と知っておくという意味で理解しておきたい指標です。
疑わしいとき:臨床予測ルール(CPR)
身体所見や背景からVTEが疑わしくなってきたら、次は臨床予測ルール(clinical prediction rule; CPR)で尤度を整理します。
ここで押さえておきたいのが、これらのクライテリアが出してくれるのは「DVT(あるいはPE)がありそう(likely) / なさそう(unlikely)」という尤度の判断であって、「診断」ではないということです。
ですから、PTがこれを使う目的は、自分でVTEを「診断」することではありません。
「さらなる検査が必要かどうか」を判断し、それを医師や看護師とエビデンスベースで共有するための、いわば共通言語(コミュニケーションツール)として使うと考えておくのが良いでしょう。
その前提のうえで、ここで使われる代表的なものを挙げておきます。
DVT用:2-Levels Wells criteria for DVT
DVTについては、Wells criteriaを「likely / unlikely」の2分類にしたものが、2023年のNICEガイドラインでも推奨されています。
| 臨床徴候 | 点数 |
|---|---|
| アクティブな癌(直近6ヶ月での治療) | +1 |
| 麻痺、筋力低下、または直近での下肢のギプス固定 | +1 |
| 3日以上のベッド上安静、または12週以内の麻酔を要する手術歴 | +1 |
| 深部静脈系に沿った限局性の圧痛 | +1 |
| 脚全体の腫脹 | +1 |
| 健側に比べて3cm以上の下腿腫脹 | +1 |
| 患肢の圧痕性浮腫 | +1 |
| 表在静脈の側副血行路の存在 | +1 |
| DVTの既往 | +1 |
| DVTと同程度に考えられる別疾患がある | -2 |
- ≧2点 → DVT likely(さらなる検査が必要)
- <2点 → DVT unlikely
PE用:2-Levels Wells criteria for PE
PEについてもWellsがあり、こちらは主観的な項目が含まれるが特徴です。
| 臨床徴候 | 点数 |
|---|---|
| DVTの臨床徴候・症状がある | +3 |
| PE以外の診断が考えづらい | +3 |
| 心拍数 >100 | +1.5 |
| 3日超の不動、または直近4週間での手術歴 | +1.5 |
| DVT/PEの既往 | +1.5 |
| 喀血 | +1 |
| 悪性腫瘍 | +1 |
4点超でPE likelyとみなします。
上肢DVTには Constans score
UE-DVTにはConstans scoreが推奨されます。セラピストの観点からは、
- 中心静脈カテーテル・ペースメーカーの存在
- 限局性の疼痛
- 一側性の腫脹
の3つを意識的に聴取・確認することが重要です。
PTとしての進め方:3ステップ
これらを踏まえて、PTとしてのVTEスクリーニングは、おおむね次の3ステップで進めるのが整理しやすいと思います。
- カルテで事前情報を確認……VTEを起こしやすい土台がないか
- 対面で身体所見・症候を確認……一側の腫脹、圧痕性浮腫、深部静脈沿いの圧痛、熱感・発赤、PE徴候など
- 疑わしければCPRで尤度を整理し、医療チームへconsult

落とし穴①:所見はあるのにルールでは「unlikely」だったら?
これ、結構悩ましいケースだと思うのですが、結論から言うと、それでも医療チームへreferするのが推奨されます。
というのも、ガイドラインのアクションプランでは「Wellsがunlikelyだった場合、次にD-dimerを検査する」というプロセスが提案されているからです。
つまり、身体所見があった時点で、すでにさらなる医学的検査が必要なフェーズに入っているわけです。
「ルールでunlikelyだったから様子見」ではなく、「所見があるなら、次の検査につなぐために共有する」というのが正しい流れですね。
落とし穴②:ルールを過信しない
もう一つ大事なのが、これらのルール単独では、VTEを100%近く除外できるわけではないということです。
特に入院環境ではこれが顕著で、ある報告では、入院患者でWells criteriaがlow riskと判断されたケースでも、5.9%でDVTが発生していたとされています(Silveiraら, 2015)。
また、Wellsの除外能力は、外来よりも入院環境で3%ほど落ちる(failure rateが3%高い)、とも言われます。
予防:そもそも作らせない
スクリーニングと並んで重要なのが、当然ながら予防です。PTとして関与できる(あるいは関与すべき)ものを挙げておきます。
- 可及的早期の歩行・離床(1〜2日以上、不必要に臥床を長引かせない)
- 背臥位・座位の間の下肢挙上
- 持続的な座位を避ける
- 臥床中の持続的なankle pump(足関節の自動運動)
- 弾性ストッキング、間欠的空気圧迫装置の使用
- high-risk患者への予防的抗凝固薬(これは医師の管轄ですが、把握しておく)
もちろん離床の可否についての最終的な判断は医師によりますが、その医師の許可の範囲内で我々PTが何をできるか、という風に考えていく必要があります。
診断されたらいつ動かしていいのか
最後に、すでにVTEと診断された患者さんを「いつから動かしていいのか」という点。ここはガイドラインの推奨が参考になります。
要点だけ拾うと、
- 下肢DVT……抗凝固療法が治療閾値に達した段階で動かしてよい(エビデンスレベルI, 推奨度A)
- 低リスクのPE……抗凝固療法が治療閾値に達したら運動開始(I, A)
- 広範型の中〜高リスクPE……低リスクの基準を満たし、かつ血行動態が安定するまでは動かさない(V, P)
- 抗凝固薬で治療中の患者を初めて動かす前には、薬剤のクラス・開始日・期間を確認する(V, P)
※推奨度P(Best Practice)=検証研究が行われていない/行えない状況で、現行の臨床的慣行やガイドライン作成グループの臨床経験、明確な利益・害・コストに基づいて推奨されるもの
とはいえ、基本的には医師の指示が細かく出ると思うのでその点に注意するのが重要でしょう。
私見
国試の勉強をしていたときはDVTとDダイマーがワンセット、くらいのイメージでしたが(笑)
実際に臨床でやっていく中ではしっかりと症状と徴候を把握することや患者個人のリスク因子について正確に理解しておく必要があります。
どんなクライテリアを使うにせよ、これらはあくまで「医師に共有し、次の検査につなぐ」ための共通言語であって、PTがこれで白黒つけるためのものではありません。
むしろ大事なのは、「なんか今日この患者さん、片脚だけ腫れてないか?」「術後の割に息切れがおかしくないか?」といった、日々の観察から拾い上げる感度なんだろうなーと思います。
そして、その「気づき」を、ただの主観で終わらせずにWellsなどのフレームに乗せて、根拠とともに医師へ伝えられること。
ここがリスク管理におけるPTの腕の見せどころなのかな、と。
参考文献
- Hillegass E, Lukaszewicz K, Puthoff M. Role of Physical Therapists in the Management of Individuals at Risk for or Diagnosed With Venous Thromboembolism: Evidence-Based Clinical Practice Guideline 2022. Phys Ther. 2022.
- Konstantinides SV, Meyer G, Becattini C, et al. 2019 ESC Guidelines for the diagnosis and management of acute pulmonary embolism developed in collaboration with the European Respiratory Society (ERS). Eur Respir J. 2019;54(3):1901647. doi:10.1183/13993003.01647-2019
- Lapidus LJ, Ponzer S, Pettersson H, de Bri E. Symptomatic venous thromboembolism and mortality in orthopaedic surgery – an observational study of 45 968 consecutive procedures. BMC Musculoskelet Disord. 2013;14(1):177. doi:10.1186/1471-2474-14-177
- National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Venous thromboembolic diseases: diagnosis, management and thrombophilia testing. 2023.
- Silveira PC, Ip IK, Goldhaber SZ, Piazza G, Benson CB, Khorasani R. Performance of Wells score for deep vein thrombosis in the inpatient setting. JAMA Intern Med. 2015;175(7):1112-1117. doi:10.1001/jamainternmed.2015.1687
- Singh T, Lavikainen LI, Halme ALE, et al. Timing of symptomatic venous thromboembolism after surgery: meta-analysis. Br J Surg. 2023;110(5):553-561. doi:10.1093/bjs/znad035
- Wells PS, Anderson DR, Bormanis J, et al. Value of assessment of pretest probability of deep-vein thrombosis in clinical management. Lancet. 1997;350(9094):1795-1798.
- White RH, Romano PS, Zhou H, Rodrigo J, Bargar W. Incidence and time course of thromboembolic outcomes following total hip or knee arthroplasty. Arch Intern Med. 1998;158(14):1525-1531. doi:10.1001/archinte.158.14.1525

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