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#11 肩関節前方不安定症の評価法(テスト)まとめ

トピックレビュー

肩の脱臼とそれに続発する不安定性はスポーツ、特にコンタクトスポーツでは頻繁に遭遇します。
しっかりと(?)脱臼してしまえば確実に医師へreferするので良いのですが、肩に何らかのダメージを負ったあとの評価で不安定感が除外できないときには不安定性の評価が役立ちます。

不安定性の評価は様々なものがありますが、一般的にはapprehensionとrelocationがよく用いられる代表的な検査法でしょうか。
アスリートのスポーツ外傷の評価に関するtextbookである”Examination of orthopedic athletic injuries“では、それらに加えてもうひとつ紹介されています。それ以外にも様々なものがありますが、基本的にこの3つ(2つ)ができれば良いと思います。

今回は、「脱臼はしていないが肩に傷害を負っており、不安定性(特に前方)の有無を確認したい」時に使う検査法をいくつか紹介します。

以下のテストは、基本的に不安定な方向にわざと動かすようにするテストです。したがってこれらのテストはgentleに(優しく、ゆっくりと)行う必要があります。
また、history taking(問診)の段階で脱臼したことが明らかであればこれらのテストは必要ないと思います。

おさらい:肩甲上腕関節の関節包内運動

これから紹介するテスト結果を解釈する上では、肩甲上腕関節(GH関節)の関節包内運動について理解しておく必要があります。

一般的に、関節の副運動はKaltenbornによる凹凸の法則に基づいて行われると考えられています。
しかしGH関節においてはそれが一貫していないことは指摘されており(Brandt et al., 2007)、特にそのトピックはGH関節の外転運動の記述の文脈で取りあげられることが多いようです(Neumann, 2012)。

今回のトピックである前方不安定性とそれに付帯する上腕骨前方脱臼は、文字通り上腕骨頭が前方へ過剰に偏位することで生じると考えられます。
上腕骨が前方に並進する運動の最たる例は水平外転であり、特に外転位での過剰な外旋は上腕骨前方脱臼の典型的な受傷機転となります(Cutts et al., 2009)。

Massiminiらは、異なる角度への上腕骨外転運動時の上腕骨頭の並進、および異なる外転角度からの外旋/内旋に伴う骨頭の変位について調べました(Massimini et al., 2012)。

これによれば、肩の45度外転や、90度外転位からの最大外旋は特に大きな前方変位をもたらすほか、後者の肢位は下方への変位もわずかに伴うとされています。

肩の外転と90度外転にからの外旋および内旋がどのような上腕骨頭の変位をもたらすかを示したグラフ。
図はMassimini et al. (2012)による、

これに対して、Matsumuraらは4D-CTを用いて、初期外転角度が大きければ大きいほど外旋に伴って上腕骨頭は後方に変位すると指摘しており、肩不安定症を有する患者ではこの後方変位が小さくなっていることを指摘しています(Matsumura et al., 2019)。

この結果は、外旋可動域を出すためのモビライゼーションテクニックとして前方グライドを用いるよりも後方グライドを用いる方が効果的であったことを示したJohnsonらの結果を解釈するのに役立つかもしれません(Johnson et al., 2007)。

骨頭の変位に関して有名な研究であるWernerらの研究でも、外旋では基本的に後方へと変位することが報告されており(Werner et al., 2004)、したがって前方不安定性は過剰な前方変位というよりも不十分な後方変位がもたらしていると考えるのがよさそうです。

通常の肩における、それぞれの運動中の骨頭の変位を示した図。
図はWerner et al. (2002)による。

肩前方不安定性の評価法

ここでは肩関節の前方不安定症の身体所見の評価でよく用いるテストを紹介します。

Anterior apprehension test(前方アプリヘンションテスト)

‘apprehension’とは心配、不安、という意味です。
文字通り、あえて骨頭が前方に変位するように関節運動を引き起こし患者の不安感の誘発の有無を評価する方法です。

手順

  1. 患者は仰臥位で、肩外転90度の位置で上腕骨遠位部以遠がベッドから出るようにします。
  2. 検者は患者の上腕骨を外転90度に持っていき、そのままゆっくりと上腕骨を外旋させます。
  3. 外旋の動きを入れた時、患者が不安な感じを訴えたり、あるいは表情で示したり、さらなる動きに抵抗したりする場合にこのテストで陽性とします。
    インピンジメントによっても疼痛が生じることがあるため、疼痛のみではこのテストを陽性とはみなしません(Dumonto et al., 2011)。

これは最もシンプルなapprehension testですが、これ以外にもいくつかの変法があります。
例えば上腕骨頭後方に検者の手を入れて、それを「てこ」のように用いて外旋させるものはfulcrum test(フルクラムテスト)と呼ばれ、上腕骨頭により強い前方変位の力がかかることになります。

検査精度

Hegedusらのシステマティックレビューでは、メタ分析による検査精度の推定値が提示されています(Hegedus et al., 2012)。

これによれば、感度65.6%[52.7-77.1]、特異度95.4%[93.3-97.8]、陽性尤度比17.21[10.02-29.55]、陰性尤度比0.39[0.22-0.68]と示されています。

この結果からは、anterior apprehensionが陽性であれば前方不安定性があると考えてよさそうです。

Relocation test(リロケーションテスト)

relocationとは「再配置、移転」といった意味であり、その名の通り上腕骨頭のポジションを徒手的に移しながら動作を行った時の反応を見るテストです。

手順

  1. 基本の手順はanterior apprehensionと同じで、外旋を入れる際に患者の上腕骨頭を後方に押し込みながら行います。
  2. この操作に伴って、患者が不安感や疼痛の軽減を訴えた場合にテスト陽性とみなします。

前方不安定性はその通り、骨頭が過剰に前方に変位してしまう(あるいは後方変位が十分に出ない)ために生じるものです。
もしも前方不安定性が確かに存在しているのであれば、徒手的に骨頭を後方に押し込んだときに前方不安定症に起因する症状が減弱するのでは?という考えですね。

このテストを終える時は、必ず外旋方向への力を外してから骨頭を押さえる力を外すようにします。

検査精度

Hegedusらのシステマティックレビューでは、感度64.6%[54.9-70.5]、特異度90.2%[86.8-93.0]、陽性尤度比5.48[0.56-53.8]、陰性尤度比0.24[0.24-1.27]であると報告されています(Hegedus et al., 2012)。

単独ではそこまで臨床的意義はないと思われますが、基本的にはanterior apprehensionとの流れで行うことが多いですね。

Anterior release test (“Surprise” test)

前方不安定性を評価するテストクラスターの1つとして紹介されることもありますが(例えばLo et al. (2004)など)、臨床上あまり行うことはないかと思います。
Starkey・Brownも、「臨床上の使用は推奨されない」と説明しています(Starkey & Brown, 2015)。

なので紹介だけですね。特に使った方が良いとも思いませんし、上2つを使うので良いと思います。

手順

Relocation testの形式で、apprehension testの時以上に外旋を入れます。
その後、外旋は入れながら骨頭を押さえる力を外します。

このときに疼痛や骨頭の前方変位が生じればテスト陽性とします。

検査精度

Hegedusらのシステマティックレビューでは、感度81.8%[69.1-90.9]、特異度86.1%[72.1-94.7]、陽性尤度比5.42[0.96-30.52]、陰性尤度比0.25[0.08-0.78]と報告されています(Hegedus et al., 2012)。

その他のテストについて、いくつかのトピック

Lizzioらによるレビューでは、上記のテストに加えてSulcus test、Load and Shift testなども紹介されています(Lizzio et al., 2017)。

sulcus test(サルカステスト)は特に下方不安定性を訴える場合に有効だったりしますね(下垂していると腕が抜けそう、など)。骨頭を把持して下方に引っ張ったときの緩さや、肩峰下に溝ができるか(=サルカスサイン)が見られるかを評価します。

load and shift test(ロードアンドシフトテスト)は、患者の骨頭を前方に動かした時にどれだけ変位するかを見るものです。これは陰性/陽性という分け方では無く、いくつかのグレーディングスケールで評価されることが多いです。

このテストは術中の麻酔下での安定性の評価法としての別法も提案されています(DeFroda & Owens, 2018)。

Liuらは、apprehension, relocation, load and shift, sulcus test, crank testの5つを組み合わせることでMRIよりも高い精度で関節唇の損傷を予測できると報告しています(Liu et al., 1996)。
MRIよりも、というのはおそらく技術的な観点から現在ではそんなこともないような気もしますが、、
このように複数のテストを組み合わせることでより高い精度で身体所見から病態を評価することができるとも考えられます。

後記

これを執筆している時は2023年ですが、この1年で運動器の評価についておさらいしきろうと思い立って進めていますが、なかなか進みません。。
10月時点で体幹部が残っているので正直厳しそうです。

References

  • Brandt C, Sole G, Krause MW, Nel M. An evidence-based review on the validity of the Kaltenborn rule as applied to the glenohumeral joint. Man Ther. 2007;12(1):3-11. doi:10.1016/j.math.2006.02.011
  • Cutts S, Prempeh M, Drew S. Anterior shoulder dislocation. Ann R Coll Surg Engl. 2009;91(1):2-7. doi:10.1308/003588409X359123
  • DeFroda SF, Owens BD. Arthroscopic Load-Shift Technique for Intraoperative Assessment of Shoulder Translation. Arthrosc Tech. 2018;7(3):e211-e214. Published 2018 Feb 5. doi:10.1016/j.eats.2017.08.071
  • Dumont GD, Russell RD, Robertson WJ. Anterior shoulder instability: a review of pathoanatomy, diagnosis and treatment. Curr Rev Musculoskelet Med. 2011;4(4):200-207. doi:10.1007/s12178-011-9092-9
  • Hegedus EJ, Goode AP, Cook CE, et al. Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Update of a systematic review with meta-analysis of individual tests. Br J Sports Med. 2012;46(14):964-978. doi:10.1136/bjsports-2012-091066
  • Johnson AJ, Godges JJ, Zimmerman GJ, Ounanian LL. The effect of anterior versus posterior glide joint mobilization on external rotation range of motion in patients with shoulder adhesive capsulitis. J Orthop Sports Phys Ther. 2007;37(3):88-99. doi:10.2519/jospt.2007.2307
  • Liu SH, Henry MH, Nuccion S, Shapiro MS, Dorey F. Diagnosis of glenoid labral tears. A comparison between magnetic resonance imaging and clinical examinations. Am J Sports Med. 1996;24(2):149-154. doi:10.1177/036354659602400205
  • Lizzio VA, Meta F, Fidai M, Makhni EC. Clinical Evaluation and Physical Exam Findings in Patients with Anterior Shoulder Instability. Curr Rev Musculoskelet Med. 2017 Dec;10(4):434-441. doi: 10.1007/s12178-017-9434-3. PMID: 29043566; PMCID: PMC5685956.
  • Lo IK, Nonweiler B, Woolfrey M, Litchfield R, Kirkley A. An evaluation of the apprehension, relocation, and surprise tests for anterior shoulder instability. Am J Sports Med. 2004;32(2):301-307. doi:10.1177/0095399703258690
  • Massimini DF, Boyer PJ, Papannagari R, Gill TJ, Warner JP, Li G. In-vivo glenohumeral translation and ligament elongation during abduction and abduction with internal and external rotation. J Orthop Surg Res. 2012;7:29. Published 2012 Jun 28. doi:10.1186/1749-799X-7-29
  • Neumann DA. The convex-concave rules of arthrokinematics: flawed or perhaps just misinterpreted?. J Orthop Sports Phys Ther. 2012;42(2):53-55. doi:10.2519/jospt.2012.0103
  • Starkey C, Brown SD. Examination of orthopedic & athletic injuries. 4th ed. F.A. Davis;2015
  • Werner CM, Nyffeler RW, Jacob HA, Gerber C. The effect of capsular tightening on humeral head translations. J Orthop Res. 2004;22(1):194-201. doi:10.1016/S0736-0266(03)00137-2

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