ストレングス&コンディショニングトピックレビュー

#4 【筋トレ時短論】最小トレーニング量というコンセプト

ストレングス&コンディショニング

筋トレ をしようと思っても、想像しているよりも時間が取れないことも多くあります。

ある種の完璧主義者の人にとって、満足にトレーニングが出来ないと身体は大きくならないし、筋力は高まらないのではないか……という観念に駆られることがあるようです。

また、アスリートであればトレーニングを効率良く行い、競技練習の時間と上手くやりくりをすることは非常に重要です。
なぜならアスリートは競技力を高めるために筋トレをするのであって、筋トレをすること自体が目的なわけではないからです。

ということで、今回は「筋トレの効果を出るために必要なトレーニング量の最低ラインはどの程度なのか?」ということを考えていきたいと思います。

筋トレという言葉は若干不正確で、厳密には「レジスタンストレーニング」や「ウエイトトレーニング」といった方が良いかもしれません。
今回はわかりやすさを優先して、「筋トレ(筋力トレーニング)」という用語を使用しています。

【この記事を読むと……】
・筋肥大や筋力向上に関係する要因を確認出来る
・筋トレの効果を出すために必要な最小のトレーニング量がわかる
・さらに筋トレの時間効率を高めるためのテクニックがわかる

筋トレの適応を考える上での前提知識の話

筋トレの効果の大きさについて考える前に、まずその筋トレの効果そのものについて明確にしておく必要があります。
筋力トレーニングの適応はおもに次の3つの側面から説明されることが多いですね。
すなわち、
①最大筋力strength
②筋肥大muscle hypertrophy
③筋持久力muscle endurance
の3つに分類するのが多く用いられます(Haff & Triplett, 2018)。

ここでは特にフォーカスされる①と②について確認していきます。

筋力の定義と筋力に影響する要因

筋力とは、(力学的な用語でいう)力を生み出す能力と定義されます。

筋力がどの程度発揮できるかは末梢的な要因と中枢的な要因があります。
Zatsiorskyらは、筋が発揮する力に影響する要因について、次のものを列挙しています(Zatsiorsky et al., 2021)。

【末梢性要因】
・筋の形態→横断面積、羽状角など
・自体重
・栄養、ホルモン状態

【中枢性要因】
・筋内における協調性
→運動単位の動員率、発火の同期率
・筋間の協調性

その中でも、中枢性の要因は筋力発揮に最も重要な役割を果たすとも指摘しています(Ibid.)。

筋肥大の定義と筋肥大の程度に影響する要因

筋肥大muscle hypertrophyは、筋の形態的な変化全体を指して筋のサイズが大きくなることを意味します。筋トレにおける多くの人にとっての目標ではないでしょうか。
ここでは筋線維サイズのほかに羽状角の変化も認められますが、特に「骨格筋組織の成長」をフォーカスに考えられることが多いようです(Schoenfeld et al., 2021)。

この際、筋タンパク合成が重要な要因であり、正味の筋タンパク合成量が分解量を上回れば筋の成長が生じることになります。
この筋タンパク合成には複数の分子的要因がコミットしており、特にその中でもmTORC1およびそのレギュレーションであるAkt-mTOR経路が重要な役割を果たしていると考えられています(Schiaffino et al., 2021)。

特にmTORC1の活性化においては、機械的刺激に反応する膜上の受容器が重要な役割を果たしているため、機械的な過負荷はmTORC1の活性化、ひいては筋線維の成長における重要なファクターとなります(Ibid.)。

機械的な刺激が加わると、それがジストロフィン-糖タンパク質複合体(DGC)やジアシルグリセロールキナーゼ-ζ(DGKζ)といった分子を介してmTORC1の活性化を誘発することを示した図。図はSchiaffino et al. (2021)による。

このような反応は過負荷に対する応答として理解されるため、したがってより多くのトレーニングによって多くの量的負荷をかけることで、筋サイズの増大につながると考えることができます(Haff & Triplett, 2018)。

機械的な負荷に加えて、代謝的な負荷を加えることで同化ホルモンの分泌などを促進することもまた、筋肥大においては重要な役割を果たします。
現段階では、筋肥大は①機械的なストレス、②代謝ストレス、③筋への部分的なダメージ、の3つが重要になるというコンセプトが一般的です(Schoenfeld, 2010)。

repetition continuumというコンセプトについて

それぞれの目的を果たすために要求される挙上負荷や反復回数について、これまでの膨大な研究からある程度確立されています。

Haff & Triplett (2018)をもとに作成。

この提示は非常にシンプルでわかりやすいですが、一方でそれぞれの目標に対する「絶対の」設定であるとも捉えられかねません。

実際は、あくまでこれらの設定が「主効果として目標とする適応が生じやすい」ものであって、実際はこの設定から外れても(その程度は小さいものであれ)生じるというのが現在では一般的な考えです。

この考え方は”repetition continuum”(=反復回数の連続体)というコンセプトによって非常に巧みに示されています(Haff & Triplett, 2018)。

Facebookより

この図では、筋力strength、パワーpower、筋肥大hypertrophy、筋持久力muscular enducanceのいずれも全ての範囲で生じ得ること、一方で、それらの適応が生じやすいゾーンがあることが示されています。
例えば筋肥大であれば6~12RMの範囲で生じやすい、ということですね。

とは言っても、時間効率という観点から「最小のトレーニング量」を考える際には、基本的には上の表で提示したような強度の設定が最も効率的であるとも考えられます。
これについて、次の項で確認していきます。

筋トレの効果を出すための最小のトレーニング量はどの程度か?

ここでは特に筋力の向上と筋肥大という2つの側面に焦点を当てて考えていきます。

筋力向上のための最小トレーニング量

最大筋力(1RM)を高めるために必要な最小トレーニング量については、対象者のトレーニングレベルを考慮する必要があります(Suchomel et al., 2018)。

トレーニング経験者の男性を対象としたメタ分析では、

✓6-12repsで、
✓1セット、
✓70~85%1RMの負荷で
✓高い努力性強度
✓これを週2〜3回

というプログラムを8〜12週間行うことで、スクワットとベンチプレスの1RMが有意な増加をもたらすことが示されています(Androulakis-Korakakis et al., 2020)。
6~12repsというのは先の連続体のコンセプト的には筋力向上が「最も」生じやすい強度ではないため、その意味でもこの結果は興味深いですね。しかしこの結果はあくまで特定のエクササイズ種目に関してであり、分析の過程で指摘されている通り同じBIG3であるデッドリフトの1RM、または女性・さらに高度な経験者で適用されるかは不明である点に注意する必要があります。

この視点に立って、5つの実験を行った文献も参照したいと思います(Androulakis-Korakakis et al., 2021)。
この研究では、高い努力性強度(RPE7.5~9.5)で80%1RM以上の負荷を用いて、1〜5repsを毎週3〜6セット(週のセッションで3〜6セッション)行うことで、6〜12週間にわたって筋力増大を期待することができるとされています。

両者の研究では、推奨される負荷が少し異なる点に注意が必要です。
いずれにせよ、最小のトレーニング量としては%RMに基づく負荷で、高い努力性強度を保つセットを週1~3セット行うことで得られる、と考えられるかもしれません。

とは言っても、セット数をより多くすれば筋力増大の効果は(その変化量は小さいものの)大きくなるということも指摘されています(Ralston et al., 2017)。
特にトレーニング経験が豊富な人であれば、種目当たりのセット数が<5/週よりも≧5/週の方が確実に筋力増大が望めるかもしれません。

筋肥大のための最小トレーニング量

筋肥大と実施ボリューム(挙上重量×挙上回数×セット数)用量反応関係にあることが示唆されています(Schoenfeld et al., 2017, Schoenfeld et al., 2019)。
これは先の連続体の図でも筋肥大のゾーンが広くなっていることからもわかるように、幅広い負荷で筋肥大を起こすことが出来ることが出来ることを表しています。

とは言っても、ここでは時間効率を考慮した上での最小トレーニング量を考える必要があるので、ある程度実用的なラインというのは定まっていきます。
これに関して、筋肥大に関するトレーニング戦略のガイドラインではボリュームに関して次のような推奨がなされています(Schoenfeld et al., 2021)。

負荷→中程度の負荷
セット数→週10セット程度

中程度の負荷という点に関しては、例えばLopezらによる負荷設定と筋肥大/筋力に関するメタ分析では60~79%1RMまたは9~15RMと設定されています(Lopez et al., 2021)。

おまけ:筋トレの時間効率を高めるためのトレーニング戦略

負荷設定やセット数などを考慮するほかに、どのようなエクササイズ種目を行うかといった点を考慮することで、さらにトレーニング効率を高めることが出来ます。
ここでは参考程度に、2つの文献を紹介したいと思います。

Suchomel et al. (2018)では、複数のトレーニング方法について、それらが筋肥大や筋力・パワー向上にどの程度有利かがわかりやすく示されています。

Suchomel et al. (2018)を基に作成。N/Aは利用可能なエビデンスが不十分であることを指す

特に筋肥大と筋力に焦点を当てると、エキセントリックな収縮を入れたり、可変抵抗法(チェーンやゴムバンドをバーベルなどに付加する方法)を利用したりすることは特に有益である可能性があります。

また、Iversen et al. (2021)では、時間効率を高めるためのいくつかのアイデアが示唆されています。

Iversen et al. (2021)より引用、図はAdam Virgileによる。

上の図で言っていることをざっくり日本語にしてしまうと、次のようになります。
(それぞれの具体的なトレーニング法については検索すれば出ると思います)

  • どの程度トレーニングすべきか?
    →頻度よりは週のトレーニングボリュームが重要。少なくとも筋群あたり週4セット
  • どのような重さでトレーニングすべきか?
    →最後の数レップがチャレンジングになるように、6〜15レップ
  • どのような種目を行うべきか?
    まずは両側で行う、多関節なエクササイズ
    →下肢のプッシュ系(スクワットなど)、上肢のプル系(プルアップなど)、上肢のプッシュ系(ベンチプレスなど)の3項目から、それぞれ1つずつ行う
  • スーパーセット、ドロップセット、レストポーズ法は時間効率を高め、筋肥大を促進する
  • さらに時間効率を高めたいなら?
    →過剰なウォームアップを避ける、ストレッチングセッションは飛ばす

一番最後に関しては専門家の意見も取り入れながら修正していく必要があるとは思いますが、このような視点を持つことでさらに時間効率を高めることが出来るかもしれません。
ただし、この推奨は主に筋肥大にフォーカスしているという点には注意する必要があり、筋力向上には必ずしも当てはまらない可能性があります。

まとめ

トレーニングの時間効率を高める一側面には適切な負荷・ボリュームを設定するということが挙げられます。
その上でどの程度追い込むか、どのような種目を行うかといった変数を考慮することでさらに時間効率を高めることが出来ると考えられます。

また、筋肥大において、特にトレーニング経験者であれば「失敗までの追い込み」repetition to failureが重要になる可能性も指摘されていますが(Grgic et al., 2022)、それに関しては今回は触れていません。
トレーニング効果に影響する変数は非常に多くありますが、個別性を考慮しつつ、あるいは定期的な体組成測定を行うことで、トレーニング効果を適切にモニタリングすることにつながると考えられます。

今回の負荷設定に関するまとめは次の図の通りです。

参考文献

  • Androulakis-Korakakis P, Fisher JP, Steele J. The Minimum Effective Training Dose Required to Increase 1RM Strength in Resistance-Trained Men: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2020;50(4):751-765. doi:10.1007/s40279-019-01236-0
  • Androulakis-Korakakis P, Michalopoulos N, Fisher JP, et al. The Minimum Effective Training Dose Required for 1RM Strength in Powerlifters. Front Sports Act Living. 2021;3:713655. Published 2021 Aug 30. doi:10.3389/fspor.2021.713655
  • Grgic J, Schoenfeld BJ, Orazem J, Sabol F. Effects of resistance training performed to repetition failure or non-failure on muscular strength and hypertrophy: A systematic review and meta-analysis. J Sport Health Sci. 2022;11(2):202-211. doi:10.1016/j.jshs.2021.01.007
  • Lopez P, Radaelli R, Taaffe DR, et al. Resistance Training Load Effects on Muscle Hypertrophy and Strength Gain: Systematic Review and Network Meta-analysis [published correction appears in Med Sci Sports Exerc. 2022 Feb 1;54(2):370]. Med Sci Sports Exerc. 2021;53(6):1206-1216. doi:10.1249/MSS.0000000000002585
  • Iversen VM, Norum M, Schoenfeld BJ, Fimland MS. No Time to Lift? Designing Time-Efficient Training Programs for Strength and Hypertrophy: A Narrative Review. Sports Med. 2021;51(10):2079-2095. doi:10.1007/s40279-021-01490-1
  • Ralston GW, Kilgore L, Wyatt FB, Baker JS. The Effect of Weekly Set Volume on Strength Gain: A Meta-Analysis. Sports Med. 2017;47(12):2585-2601. doi:10.1007/s40279-017-0762-7
  • Schiaffino S, Reggiani C, Akimoto T, Blaauw B. Molecular Mechanisms of Skeletal Muscle Hypertrophy. J Neuromuscul Dis. 2021;8(2):169-183. doi:10.3233/JND-200568
  • Schoenfeld BJ. The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training. J Strength Cond Res. 2010;24(10):2857-2872. doi:10.1519/JSC.0b013e3181e840f3
  • Schoenfeld BJ, Contreras B, Krieger J, et al. Resistance Training Volume Enhances Muscle Hypertrophy but Not Strength in Trained Men. Med Sci Sports Exerc. 2019;51(1):94-103. doi:10.1249/MSS.0000000000001764
  • Schoenfeld B, Fisher J, Grgic J, Haun C, et al. Resistance Training Recommendations to Maximize Muscle Hypertrophy in an Athletic Population: Position Stand of the IUSCA. Int J Strength Cond. 2021;1(1):1-30 doi:10.47206/ijsc.v1i1.81
  • Schoenfeld BJ, Ogborn D, Krieger JW. Dose-response relationship between weekly resistance training volume and increases in muscle mass: A systematic review and meta-analysis. J Sports Sci. 2017;35(11):1073-1082. doi:10.1080/02640414.2016.1210197
  • Suchomel TJ, Nimphius S, Bellon CR, Stone MH. The Importance of Muscular Strength: Training Considerations. Sports Med. 2018;48(4):765-785. doi:10.1007/s40279-018-0862-z
  • Zatsiorsky VM, Kraemer WJ, Fry AC. Science and Practice of Strength Training. 3rd eds. 2021;Human Kinetics
  • Haff GG, Triplett NT. NSCA決定版 ストレングストレーニング&コンディショニング. 第4版. 2018;ブックハウスHD

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