トピックレビュー下腿運動器評価

#8 シンスプリントを予測できるスペシャルテストがある?

トピックレビュー

シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎とも)はランナーをよく襲う障害であり、そして経過が長くなりやすいもので非常に厄介です。

反復的なランニングやジャンピング動作での発症が最も一般的であり、症状としては脛骨の後内側縁中央〜遠位3分の1以下の以遠にかけての「にぶく、ぼんやりした」疼痛が一般的です(Miller et al., eds., 2020)。

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アスレティックトレーナーなどスポーツの現場で働くトレーナーにとってこの障害の厄介なところは、同様の部位(下腿部)に疼痛を生じるようなオーバーユース型の障害が他にも多く存在するという点です。
詳細は後述しますが、例えば下腿遠位の疲労骨折stress fractureや慢性労作性コンパートメント症候群chronic exertional compartment syndrome: CECSなどは見落としてはいけない、しかしある意味でフィールドレベルでは「ピットフォール」となりやすい障害です。

今回はそのようなシンスプリントについて、それを予測することのできるテストを紹介した論文について見ていきます。

「MTSSの発症を予測する2つの単純な臨床テスト:shin palpation testとshin oedema test」
Pubmed Link

「シンスプリントshin splint」という用語は非常に広い語義をもつため、現在はその使用が推奨されていません
よって、これ以降はシンスプリントのことはMTSS = medial tibial stress syndromeとして表記します。

MTSSを鑑別するための2つのテスト

Newmanらによる上記文献で紹介されている徒手的な検査法が、

  1. shin palpation test
  2. shin oedema test

の2つです。検査法の名称からも分かるとおり、この検査は下腿部=shinの触診palpationと浮腫(腫脹)oedemaを確認するものということですね。

検査の手順

【shin palpation test】

脛骨の後内側縁とその周辺の筋群を含むように、下腿の後内側遠位3分の2を触診する。
触診の強さとしては「水を含んだスポンジを絞るように」(原文では”squeeze out a wet sponge”)圧をかける。
何らかの疼痛を訴えた場合、「疼痛あり」と記録する。

【shin oedema test】

脛骨内側縁の遠位3分の2を5秒間押圧しつづけ、腫脹の徴候の有無を確認する。

検査法自体は脛骨の内側縁さえ触知できれば実施可能ですし、その部位は触知も容易なので難しいテストでは無いと思います。(強いて言えば浮腫の徴候を確かめるくらいでしょうか)

検査の精度

この研究では、このテストは非常に高い精度でMTSSを予測できると結論づけています。

オッズ比+LR-LR
shin palpation test4.633.380.732
shin oedema test76.17.260.095
palpation + oedema7.936<0.001

特にこの2つのテストを組み合わせた時の精度は高く、両テストで陽性となればMTSSを有している可能性が非常に高く、また両テスト陰性であればMTSSではない可能性が非常に高いということになるわけです。

こう見ると非常にこのテストは有用に感じるかもしれませんが、他の研究でこの検査法に関する言及がされておらず、結果の再現が(管見の限り)ないという点は注意する必要があります。

下腿部痛はきちんと鑑別することが重要

このテストはあくまでMTSSの可能性を予測するためのテストであって、他下腿部痛の可能性を排除できるわけではない点に注意する必要があります。

特にアスリートにおける下腿部痛として適切に鑑別すべき疾患には次のようなものがあります(Hogrefe & Terry, 2020)。

【アスリートにおける労作性の下腿部痛の鑑別】

筋骨格系

  • MTSS
  • bone stress injury(骨ストレス障害、疲労骨折の前駆)
  • 慢性労作性コンパートメント症候群; CECS
  • 筋損傷
  • fascial herniation
  • 腱障害

脈管系

  • 膝窩動脈絞扼症候群popliteal artery entrapment syndrome; PAES
  • arterial endofibrosis(動脈内の「線維膜化」)
  • 静脈還流不全

神経系

  • 脊髄の狭窄による神経症状
  • 末梢/中枢神経絞扼
  • 近位関節(股関節・膝など)の関連痛

腫瘍

感染

これらの中にはかなり稀な疾患もありますが、特に赤字で示したものはしばしば見られるものである and/or 適切な鑑別が必要になるでしょう。

以下に非画像的な所見について、MTSS、疲労骨折、CECS、PAESについてまとめました。

内容はMiller et al. eds. (2020)、Starkey & Brown (2015)、Davis & Shaw (2022)をもとに作成。

先ほどこれらは「ピットフォール」となりやすいと説明しましたが、この所見の差を理解しているかどうかで鑑別の難易度は確実に落ちると思われます。

例えば選手から「シンスプリントかも」という訴えがあったときに、上記の2つのテストに加えて、

  • いつから痛くなった?受傷機転は?
    →外傷性であれば急性のコンパートメント症候群も考慮する
  • 疼痛部位はワンフィンガーで示せる?示せない?
    →疲労骨折かMTSSか?
  • その疼痛は安静時にもあるか?
    →あるのであれば進行した疲労骨折などの可能性も考慮する
  • しびれや指先の冷たさなどはないか?(神経症状の有無は?)
    →CECSやPAESも考慮する

といった点を適切に聴取すると、ある程度絞り込んでいくことができるでしょう。その上でMTSSが疑われる場合に、上記のshin palpation/oedema testを行うことで検査後確率をより高めることができます。

医師でない限り診断diagnosisをすることはできません。
これまでの内容は、あくまで緊急の医師への紹介を要するかどうかについて、適切な教育を受けた医療従事者が判断する上での材料でしかありません。

学校の部活動などでアスレティックトレーナーなどがいない場合に「シンスプリントかも?」と思ったらまずは整形外科を受診しましょう。最終的な診断は画像所見なども含めた医師の診察に基づいて行われます。

後記

最近、Starkeyらの”Examination of orthopedic & athletic injuries.“の5th editionが出版されていることに気づきました。

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これはBOC-ATCのExam Referencesとしても列挙されており、スポーツ傷害の評価について学ぶ上で非常に良い教科書だと思います。
自分も前版の4th editionを使っていますが、日本ではあまり触れられないアメリカンフットボールにおける防具の脱がせ方などについても写真付きで記述されているので非常に参考になります。

少し高いですが、この分野を詳しく学びたい方にはおすすめです。

References

  • Davis DD, Shaw PM. Popliteal Artery Entrapment Syndrome. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; August 29, 2022.
  • Hogrefe C, Terry M. Leg Pain and Exertional Compartment Syndromes. In DeLee, Drez, & Miller’s Orthopaedic sports medicine: principles and practice. 5th eds.Elsevier;2020
  • Miller MD, Hart JA, MacKnight JM. eds. Essential orthopaedics. 2nd eds. Elsevier;2020
  • Newman P, Adams R, Waddington G. Two simple clinical tests for predicting onset of medial tibial stress syndrome: shin palpation test and shin oedema test [published correction appears in Br J Sports Med. 2013 Oct;47(15):991]. Br J Sports Med. 2012;46(12):861-864. doi:10.1136/bjsports-2011-090409
  • Starkey C, Brown SD. Examination of orthopedic & athletic injuries. 4th eds. F.A. Davis;2015

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