以前、腰痛の分類システムについての記事を書きました。
そこでは代表的な5つの分類システムを概観したのですが、その中で1つだけ「他とは少し毛色が違う」ものとして紹介したのが、今回取りあげるCognitive Functional Therapy(CFT)です。
どういう点で毛色が違うのかというと、そもそもCFTは患者を「分類する(カテゴライズする)」ためのものではないという点です。
CFTはPeter O’Sullivan氏らによって考案されたもので、障害を伴う腰痛(disabling low back pain)について生物心理社会的(bio-psycho-social)な側面から評価し、個別的なマネジメントプランを立てるまでのクリニカルリーズニングの枠組みであるとされています。
前回の記事ではさらっとしか触れられなかったので、今回はこのCFTについてもう少し踏み込んで紹介してみたいと思います。
今回の文献は↓こちら

なぜ「分類しない」のか
腰痛は非常に有病率の高い疾患ですが、その表れ方は個々人によって全く異なります。
ここが腰痛の難しいところで、例えば画像所見上で同じような椎間板の膨隆があったとしても、ある人はほとんど症状を感じず普通に生活できているのに、別の人は強い痛みと恐怖感で日常生活がままならない、ということが普通に起こります。
つまり、痛みの表れ方や生活へのインパクトは、その患者が背景に抱えている様々な要因に大きく影響を受けるわけです。
これまで様々な分類システムが考案されてきましたが、O’Sullivanらはそれらの多くがこうした腰痛の多因子性をそぎ落としてしまっていると指摘します。
患者をいずれかのグループに当てはめるという方法は、どうしても一次元的で還元主義的(reductionism)になりがちで、腰痛という障害がもつ生物心理社会的な性質を反映しきれない、というわけですね。
CFTはこのような問題を乗り越えるためのフレームワークです。
なので、患者を分類するためのものではなく、腰痛という障害を理解し、それに対してどうアプローチするかを考えるための枠組みである、という風に理解する必要があります。
LBPという「障害」に関連する因子
CFTを理解する上でまず押さえておきたいのが、「腰痛という障害には実に多様な因子が関わっている」という前提です。
O’Sullivanらは、腰痛障害に関連する因子を以下のように整理しています。
痛みの特徴(Pain Characteristics)
痛みは、単に侵害刺激の強さだけで決まるものではありません。
その刺激を患者自身がどの程度「脅威」とみなすか——過去の痛みの経験や信念、その時の文脈などから解釈された結果として、痛みは生じます。
だからこそ痛みの感じ方は人によって全く違いますし、それを「中枢性」「末梢性」のように単純にサブグループ化してしまうのは、この複雑さを捨象していることになります。
ある人にとっては痛みは「機械的な刺激への反応」かもしれませんが、別の人にとっては明確に説明のつかない、不釣り合いなほど不快な経験として体験されている、ということもあるわけです。
病理解剖学的因子(Pathoanatomical Factors)
このフレームワークにおいて、腰痛(LBP)は大きく分けて
- Serious pathology(骨折や悪性腫瘍など、いわゆるred flag)
- Specific LBP(進行性の神経障害を伴う神経根圧迫など)
- Non-specific LBP
と分類されますが、その大部分は単一の病理解剖学的所見で正確に説明できるものではありません。
MRIなどの画像は異常所見を見つけるのには有効ですが、それが実際の症状や機能障害と関連しているとは限らないというのは、もはやよく知られた話かと思います。
それどころか、こうした画像所見はときに患者の不安やストレスを煽り、「医原性の障害」を引き起こすリスクすらあります。
なので、これらはあくまで障害像の一部としてのみ捉えるべき、というスタンスです。
身体的因子(Physical Factors)
日常生活動作や仕事、スポーツなどに関連した脊柱への負荷のパターンは、当然腰痛障害と関連します。
一方で興味深いのは、痛みに対する反応として現れる「機能的な行動」(pain-related functional behaviors)です。
痛みやその恐怖への反応として、患者は動作をこわばらせ、ゆっくりにし、特定の動作パターンに「固定」して、腹筋群や背部筋をリラックスさせずに固めてしまう、ということが起こります。
ちなみにこういった「体幹を固めて守ろうとするパターン」について、van Dieënらはこのようなモーターコントロールの変化パターンをTight controlと呼んでいます1。
共収縮を高めて脊柱をガチッと固めることで、短期的には痛みや脅威を避けられるのですが、長期的にはかえって持続的な筋疲労や圧縮ストレスを生み、痛みの原因になりうる、という転帰が懸念されます。
これ自体は本来「適応的(守ろうとする)」な反応なのですが、それが実際の組織の損傷や病理に対して不釣り合いなものになると、今度は不適応なものになってしまう、という点が重要です。
心理的因子(Psychological Factors)
ここがCFTの核心とも言える部分です。
患者が自分の痛みについてどう考えているか(認知)、痛みに対してどう感じているか(情動)——このいずれもがLBP障害と密接に関わっています。
原著では、これらを引き出すための問診の具体例が表として示されていて、これがなかなか実践的です。例えば、
| 心理的因子 | 問診の例 | 回答の例 |
|---|---|---|
| 原因/意味づけ | 「痛みの原因は何だと思いますか?」 | 「何かが傷ついているのだと思います」 |
| 転帰 | 「将来の自分についてどう考えていますか?」 | 「年を取ればもっと悪くなると思う」 |
| 破局的思考 | 「いま腰を曲げたらどうなると思いますか?」 | 「腰が壊れてしまうのではないかと怖いです」 |
| 自己効力感 | 「自分の腰についてどの程度自信がありますか?」 | 「自信はないです」 |
といった感じ。(全部はさすがに冗長になるので、代表的ないくつかだけ載せました)
こういった負の認知・信念は、痛みを増幅させ、不適切なコーピングを誘発し、結果として障害像を形作っていきます。
そして見過ごせないのが、原著でも指摘されている通り、こうした負の感情の多くは、実は医療者によって引き起こされていることも少なくない、という点です。
これは自戒を込めて、いつも意識しておきたいところだなあと思いますね。
社会的因子・ライフスタイル・併存症
これ以外にも、
- 社会的因子(LBPの家族歴、社会経済的状態、教育レベルなど)
- ライフスタイル(睡眠、身体活動量など)
- 併存症(メンタルヘルス、肥満、睡眠障害など)
といった因子もLBP障害に関わってきます。
CFTの基本的な進め方
CFTは、serious pathologyとspecific LBPを除いた多くのLBPに適用できる、統合された行動学的アプローチとされています。
大きくはアセスメントと介入に分かれます。

アセスメント
アセスメントでは、上で挙げたようなLBP障害に関わる因子を包括的に評価し、その中でも特に「修正可能なもの(modifiable)」が何かを特定することが求められます。
問診
問診の前に、まず痛みの部位の正確なスケーリング(ボディチャートなど)と、多面的なスクリーニングを行うのが良いとされます。STarT Back Screening ToolやÖrebro Screening Toolなどですね。いずれも日本語版があり、妥当性も報告されています。
問診自体は、基本的にオープンクエスチョンから始めます。
「あなたのお話を聞かせてください……」
こういった切り出し方をすることで、患者が自分の痛みをどう意味づけ・解釈しているかに近づいていくことができます。
センシティブではあるものの、非断定的で注意深い問診を通して、痛みの病歴、痛みに対するスキーマ(信念)、情動的反応、行動的反応、避けている活動……といった多面的な情報を明らかにしていきます。
機能的な動作のアセスメント
身体検査も、一般的な腰椎の可動域検査……という形ではなく、患者にとって意味のある機能的活動を評価していきます。問診で「痛い・怖い・避けている」と語られた動作ですね。
そして特徴的なのが、観察した後に同じ動作を「ガイド付きで試行(guided experiment)」してみる、という点です。
代償的な反応(運動学的な代償、交感神経反応、防御的な筋緊張など)が、視覚的・ハンズオンのフィードバックを加えることで減弱するかどうかを、患者と一緒に確かめていきます。
これがうまくいくと、「保護や回避をしなくても、その動作を安全に行えるんだ」という気づきを患者にもたらすことができます。ここがCFTのキモの一つだと感じます。
介入
CFTの介入は、大きく3つのプロセスからなります。
- 疼痛の意味づけ(Making sense of pain)
- 意味のある課題への段階的な暴露(Exposure with control)
- ライフスタイルの変容(Lifestyle change)
① 疼痛の意味づけ
患者個々人のストーリーや言葉、メタファー、そしてガイド付き試行で得られた実体験を使いながら、痛みに関する新しい理解を一緒に構築していくプロセスです。
「機能的な活動が痛みや機能の喪失を引き起こしている」という負の認知を、実際の体験を通して少しずつ書き換えていく、というイメージですね。
② 意味のある課題への段階的な暴露
実験的な学習を通して、行動変容を起こしていくプロセスです。患者が徐々に、痛みなく目的の動作を行えるようになることを目指します。
ポイントは、必要以上に痛みに意識を向けさせないこと。身体のコントロールに焦点を当てていきます。
痛みが強く情動的ストレスが大きい患者の場合は、いきなり動作から入るのではなく、まず横隔膜呼吸やボディスキャンといったマインドフルネス的な介入から始めることもあります。
ここでもハンズオンのフィードバックは使いますが、受動的な依存を高めないよう、あくまで必要最小限にとどめるべき、とされている点は重要かなと思います。
③ ライフスタイルの変容
身体活動、睡眠など、患者の嗜好や目標、実行可能性を踏まえて個別的にデザインしていきます。
これら全てのプロセスを通して中心的な役割を果たすのが、患者とセラピストの強い治療関係(治療同盟、いわゆる”therapeutic alliance”)です。
ここがあって初めて、ポジティブな信念や習慣の構築が可能になる、というわけですね。
CFTに必要なスキルと、エビデンス
必要なスキル
CFTは、従来の徒手療法や運動療法とはかなり毛色の異なるスキルを要求します。
病理解剖学的な知識だけでなく、心理社会的要因と障害像の関連についての深い理解、そしてコミュニケーションスキル、クリニカルリーズニング、観察力、フィードバック能力……といった多面的な能力が不可欠になります。
エビデンス
ここは少し慎重に見ておきたいところです。
まず2023年のシステマティックレビュー2では、疼痛・機能障害・満足度のいずれについても、CFTが通常ケアや待機リスト群と比べて優れているという確かなエビデンスはない、と結論づけられています。
一方で、同じ2023年にLancetに出版されたKentらのRESTORE trial3では、492人の慢性腰痛患者を対象に、
- 通常ケア群
- CFTのみ群
- CFT+バイオフィードバック群
の3群を52週間にわたって比較し、CFTの2群がいずれも、通常ケアに比べて疼痛関連の身体活動制限(RMDQ)などで有意に大きな改善を示した、と報告しています。費用対効果(QALY)の面でもCFT群が優れていました。
さらにHancockらの二次分析4では、もともと疼痛による身体活動制限が強い患者ほど、CFTが特に有効である可能性が指摘されています。
そして最後に、RESTORE trialの3年フォローアップの研究5では、CFTの効果が3年経っても維持されていたことが示されています。
機能障害(RMDQ)の群間差を見ると、通常ケア群に比べて、
- CFTのみ群:おおよそ −2.0〜−4.9
- CFT+バイオフィードバック群:おおよそ −2.6〜−5.6(いずれも95%CI)
と、3年時点でも有意な差が保たれていました。
臨床的に意味のある改善(レスポンダー)を示した割合も、介入2群でそれぞれ62%、74%と、通常ケアを上回る結果となっていました。
まとめると、CFTは慢性腰痛に対して有効な可能性はあるものの、セラピストの技量や患者側の個人変数に大きく左右されるため、今後のさらなるエビデンスの集積が期待される、という段階かと思います。
私見
腰痛では心理社会的な側面も評価しましょう……ってよく言われるんですが、どう進めていったら良いかが結構難しいポイントだと感じているんですよね。
今回紹介したCognitive Functional Therapyは、その意味でそういう面も含めての考え方を提供してくれるという点で非常に重要かなと思います。
前回の分類システムの記事でも書きましたが、多くの分類システムはどうしてもバイオメカニクス的な側面に偏りがちで、心理社会的側面を十分に拾えていない印象があります。
その意味で、この「拾いきれていなかった部分」に正面から向き合おうとしているのが大きな意義ですね。
ただ、これを外来のリハという環境でどこまで実践できるか、というのは正直まだ悩ましいところです。
1単位20分のリハの中で、オープンクエスチョンから患者のストーリーを丁寧に聞き取り、ガイド付き試行を重ね、信念を書き換えていく……というのは、理想ではあっても現実にはなかなか難しい。
なので個人的な落とし所としては、「CFTをそのまま完全に実践する」というより、普段の介入の中に、CFT的な視点(=痛みを多面的に捉え、患者の信念や恐怖に目を向ける視点)を少しずつ組み込んでいく、というあたりが現実的なのかなと感じています。
あと、エビデンスのところでも触れましたが、CFTは結局のところセラピスト自身の技量に大きく依存するアプローチです。「フレームワークを知っている」ことと「実際にできる」ことの間には、相当大きな隔たりがありそうだなと、勉強すればするほど痛感します。
参考文献
- van Dieën JH, Reeves NP, Kawchuk G, van Dillen LR, Hodges PW. Motor control changes in low back pain: Divergence in presentations and mechanisms. J Orthop Sports Phys Ther. 2019;49(6):370-379. doi:10.2519/jospt.2019.7917 ↩︎
- Devonshire JJ, Wewege MA, Hansford HJ, et al. Effectiveness of cognitive functional therapy for reducing pain and disability in chronic low back pain: A systematic review and meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2023;53(5):244-285. doi:10.2519/jospt.2023.11447 ↩︎
- Kent P, Haines T, O’Sullivan P, et al. Cognitive functional therapy with or without movement sensor biofeedback versus usual care for chronic, disabling low back pain (RESTORE): a randomised, controlled, three-arm, parallel group, phase 3, clinical trial. Lancet. 2023;401(10391):1866-1877. doi:10.1016/S0140-6736(23)00441-5 ↩︎
- Hancock M, Smith A, O’Sullivan P, et al. Patients with worse disability respond best to cognitive functional therapy for chronic low back pain: a pre-planned secondary analysis of a randomised trial. J Physiother. 2024;70(4):294-301. doi:10.1016/j.jphys.2024.08.005 ↩︎
- Hancock M, Smith A, O’Sullivan P, et al. Cognitive functional therapy with or without movement sensor biofeedback versus usual care for chronic, disabling low back pain (RESTORE): 3-year follow-up of a randomised, controlled trial. Lancet Rheumatol. 2025;7(11):e789-e798. doi:10.1016/S2665-9913(25)00135-3 ↩︎


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