股関節・大腿部評価

THA術後X線の見方①|オフセットと回転中心から力学的評価をする

股関節・大腿部

人工股関節全置換術(THA)後の患者さんを担当するとき、みなさんは術後の画像(レントゲン)をどこまで見ているでしょうか。

「脱臼してないか」「インプラントがちゃんと入っているか」というのはもちろん大事なんですが、PTの視点で画像を読むと、実はもっと多くのことが見えてきます。

というのも、THA後の画像には、その患者さんの股関節が”どういう力学的環境”に置かれているのか、そしてどんな脱臼リスクを抱えているのか、という情報が詰まっているからです。
これを事前に読めるかどうかで、リハの組み立ての解像度がかなり変わります。
(もちろんリスク管理という点からも重要です)

今回はまず画像からその人の生体力学的環境がどう変化しているかを読み解く,というところについて見ていきます。

基本的に、術後の画像は健側と比較、もしくは術前後での比較から解釈していくことが多いです。


Center of Rotation (COR) の評価

まずは股関節の回転中心(center of rotation; COR)です。
骨盤の前後像から、大腿骨頭の中心を描出して評価します。

そもそもこのCORの基準として何を考えているのか、という点についてはとりあえず置いておくとして。

CORは垂直方向(vertical COR)と水平方向(horizontal COR)の2方向について見ていきます。

元画像はRadiopaediaより。
Case courtesy of Craig Hacking, Radiopaedia.org, rID: 37771

CORのズレをどう解釈するか

CORが基準からどの方向にズレているかで、臨床的な意味が変わります。方向ごとに「何を気にするか」を整理すると、こんな感じになります。

方向理論的な解釈
上方high hip center、脚長短縮方向、外転筋張力の低下
下方脚長延長方向、軟部組織の張力、神経伸張症状
内方体重のモーメントアーム短縮
外方体重のモーメントアーム増大、外転筋要求・関節反力の増加

実際には8方向すべてが等確率で起こるわけではなく、上方・内方へ偏位するケースが多いとされます。
例えば、ナビゲーションTHA894件の解析では、CORの偏位は平均で内方4.97mm・上方0.83mm・後方0.64mmであったと報告されています(Benson et al., 2020)。

内方偏位は必ずしも悪ではないと考えられます。
これは端的に言えば、回転中心を内方にずらすと体重のモーメントアームが短縮するため、結果的に前額面上での支持を作るのに必要な外転筋群への要求が減るからです。

いわゆるPauwelsの理論と呼ばれるものですね。『キネシオロジー』『標準整形外科学』など、基本的な教科書にはほとんど載っているものになります。

上の図において、B(B1,B2)とXの距離が体重のモーメントアームになります。逆に、A-Bは外転筋群のモーメントアームを表します。
例えば図Aから図Cのように骨頭を内側に入れ込むと、CORは内方化してB-Xの距離が短縮します。
Amazon.co.jp: 標準整形外科学 第16版 (Standard Textbook) : 田中 栄, 高木 理彰, 松田 秀一, 谷口 昇, 今釜 史郎: 本
Amazon.co.jp: 標準整形外科学 第16版 (Standard Textbook) : 田中 栄, 高木 理彰, 松田 秀一, 谷口 昇, 今釜 史郎: 本

一方で、外方偏位は基本的に生体力学的には不利な環境になっていることを意味します
ここでは内方偏位した場合と逆のことが起こるとイメージしてもらえればわかりやすいかなと思います。

つまり、体重のモーメントアームが伸び、外転筋のモーメントアームが減るので、同じように股関節外転モーメントを生成するにしても外転筋が発揮すべき張力は増大します。

実際、カップを外方に設置しすぎると、長期的にポリエチレン摩耗や骨融解のリスクが上がるという報告もあります(Georgiades et al., 2010)。


THA術後のFemoral Offsetの評価

次にFemoral offset(FO)です。これは大腿骨頭中心から、ステム中心を通る大腿骨長軸までの距離と定義されます。

画像はRadiopaediaより。
Case courtesy of Craig Hacking, Radiopaedia.org, rID: 37771

FOを適切に戻すことは、屈曲・内旋の可動域改善や、生体力学的に有利な股関節の再建につながります。

FOが変わると何が起こるか

FOの生体力学的な効果は、外転筋のモーメントアーム(MA)と関節反力(JRF)の関係で理解できます。

  • FO↑ → 外転筋MA↑ → 必要な外転筋力↓ → JRF↓
  • FO↓ → 外転筋MA↓ → 必要な外転筋力↑ → JRF↑

つまり、FOが短いと、同じ単脚支持でも外転筋により大きな力が要求され、関節への負担も増えるわけです(Rüdiger et al., 2017)。

患者さんの歩容から「中殿筋の機能不全かな?」と思ったとき、それが本当に筋機能だけの問題とは限らない、という視点は持っておきたいところです。

というのも、FOが短くて外転筋のモーメントアームが不利になっているだけ、というケースもあるからです。

一方で、FOが過大になると今度は別の問題が出ます。
股関節外側の軟部組織(外転筋・腸脛靱帯)の張力が高まり、患者さんが外側の張り感を訴えたり、内転制限が出たり、ひいては大転子部痛症候群(GTPS)の要因になることもあります。

high offsetは早期の無菌性ゆるみ(aseptic loosening)との関連も指摘されているので(Oettl et al., 2026)、「長ければいい」わけでもありません。


Acetabular offset (AO) と Global offset (GO)

近年は、FOだけでなく臼蓋側のオフセット(acetabular offset; AO)も合わせた“global offset”という視点が重視されます。

AOは、大腿骨頭中心から同側の涙痕までの距離として見ます(骨盤正中線からの距離で見る”Pauwel offset”という定義もあり、こちらは体重のモーメントアームにより直結します)。

図はLuca DiGiovanniら(2023)より。
こっちの方が、体重のモーメントアームと外転筋のモーメントアームをより直感的に理解しやすいかも。
下のグラフでは、文献的に推奨されているオフセット指標の修正について示しています。FOを伸ばし、AOは減らす。
トータルとしてのGOはその結果再建される、という感じですね。

FOを長くしてAOを短くすれば、global offsetは健側と同等に保てることになります。

ここで、AOが短いとは臼蓋が内方化(cup medialization)されているということです。これには、

  • メリット:体重のモーメントアーム短縮 → 関節反力低下、被覆率の改善
  • デメリット:内側の骨切除量が増える(骨質不良例では初期固定に不利)、再置換時の骨ストックが不足

という表裏があります。

古典的なChanley conceptでは、このように臼蓋の内方化に加えて大転子を骨切り&再接着させることでFOを伸ばす、という方法が取られます。
(現在ではステムのデザインでハイオフセットの機種もあったりするので、大転子を骨切りすることはまずないかと)

Cup medializationでAOを短縮その補正としてFOを増加

こうすると、「体重のモーメントアーム↓」と「外転筋モーメントアーム↑」の両取りをしつつ、global offset全体は健側と同等に保てる、という合理的な戦略になります。
目安としては、global offsetを健患比5mm以内にするのが推奨されています(Luca DiGiovanni et al., 2023)。

PT視点:オフセットは「単脚支持性」の文脈で見る

オフセットは特にPTにとって最もわかりやすく、そして最も重要な指標のように感じます。

たとえば、Trendelenburg徴候が明らかで、画像を見ると「AOが増加している」「global offsetが短い」といった所見がある場合。
これはインプラントの設置によって、外転筋が力を発揮しづらい環境が不可逆的に作られている可能性を示します。

こういうケースでは、外転筋トレーニングで歩容が劇的に改善する見込みは通常より低く、杖による代償的なアプローチのほうが適するかもしれない、という推論につながります。

ここが「画像を読めると介入判断が変わる」典型例だと思います。


脚長(leg length)

最後に脚長です。これはTHA後に患者さんからもっとも訴えの多い自覚症状で、たいていは「術側が長く感じる」というものです。

数字の目安としては、5mmくらい長くなったあたりで脚延長感が生じる傾向があるようです(Sykes et al., 2015)

画像上は、涙痕下端と小転子の間の距離で脚長を評価します。
加えて、涙痕下端から大腿骨頭中心までの距離を見れば、臼蓋側の高さ(CORの高さ)も確認できます。

「脚長差=悪」ではない

意外かもしれませんが、脚長差は必ずしも避けるべき最優先事項ではありません
教科書的には、THAの治療目標の優先順位を次のように整理されます(“Campbell”より)。

  1. 疼痛の緩和
  2. 安定性
  3. 可動性
  4. 等しい脚長
Campbell’s Operative Orthopaedics, 4-Volume Set
**Selected for 2026 Doody's Core Titles as an Essential Purchase in Orthopedics** , remains the in the complex field of …

つまり、脚長は4番目。安定性を確保するためにヘッドやネックを長くして、結果的に脚が延長する——というトレードオフは可能性としてはゼロではない、ということかなと。

脚長変化がもたらす臨床所見

延長・短縮で、注意すべきポイントが変わります。

項目脚短縮(術側が短い)脚延長(術側が長い)
軟部組織張力低下増加
脱臼リスク上がりやすい可能性?不明
神経伸張少ない特に注意
(ただし数cm単位での脚延長でのみ問題となる傾向)
外側痛不安定性寄り張力過大で出やすい
跛行骨盤下制・短縮性跛行伸び上がり様・骨盤挙上感
  • 脚短縮では軟部組織の張力が下がりやすく、laxityによる脱臼リスクに注意。
  • 脚延長では、神経の伸張症状に注意が必要です(坐骨神経・腓骨神経・大腿神経がTHA後の脚延長で症状を起こす素因になります)。
    また、femoral/global offsetの増加を伴うとGTPSなど外側部痛の要因にもなる可能性があります。

私見

THA後の画像を「オフセットと回転中心」という切り口で読めるようになると、目の前の歩容や症状が”インプラント由来の不可避なもの”なのか、”介入で変えられるもの”なのかを切り分けられるようになる、というのが一番のメリットですね。

それ以外にも、例えば「お尻の外側が痛い」という訴えについて、それが侵襲による影響だけでなく軟部組織の伸張によるものである可能性も考えられますが、そのような鑑別でも画像評価は役立ちます。

画像は繰り返しみていかないとなかなか身につかないので、日々研鑽ですね。

気が向いたら脱臼とかそういうリスクの部分と画像の関連についても書いていきます。


参考文献

  • Benson JR, Govindarajan M, Muir JM, Lamb IR, Sculco PK. Surgical approach and reaming depth influence the direction and magnitude of acetabular center of rotation changes during total hip arthroplasty. Arthroplast Today. 2020;6(3):414-421. doi:10.1016/j.artd.2020.04.003
  • Budzińska MB, Maciąg BM, Żarnovsky K, et al. How to analyze postoperative radiographs after total hip replacement. Jpn J Radiol. 2023;41(1):14-18. doi:10.1007/s11604-022-01332-8
  • Georgiades G, Babis GC, Kourlaba G, Hartofilakidis G. Effect of cementless acetabular component orientation, position, and containment in total hip arthroplasty for congenital hip disease. J Arthroplasty. 2010;25(7):1143-1150. doi:10.1016/j.arth.2009.12.016
  • Luca DiGiovanni P, Gasparutto X, Armand S, Hannouche D. The modern state of femoral, acetabular, and global offsets in total hip arthroplasty: a narrative review. EFORT Open Rev. 2023;8(3):117-126. doi:10.1530/EOR-22-0039
  • Oettl FC, Andronic O, Dimitriou D, Zingg PO, Hoch A. High-offset stems are associated with an increase in revision due to femoral loosening and all-cause: A registry-based observational retrospective cohort study. J Arthroplasty. Published online April 16, 2026. doi:10.1016/j.arth.2026.04.024
  • Rüdiger HA, Guillemin M, Latypova A, Terrier A. Effect of changes of femoral offset on abductor and joint reaction forces in total hip arthroplasty. Arch Orthop Trauma Surg. 2017;137(11):1579-1585. doi:10.1007/s00402-017-2788-6
  • Vanrusselt J, Vansevenant M, Vanderschueren G, Vanhoenacker F. Postoperative radiograph of the hip arthroplasty: what the radiologist should know. Insights Imaging. 2015;6(6):591-600. doi:10.1007/s13244-015-0438-5

コメント

タイトルとURLをコピーしました