股関節・大腿部評価

THA術後X線の見方②|カップ設置角度から脱臼リスクを評価する

股関節・大腿部

前の記事(THA術後X線の見方①|オフセットと回転中心から力学的評価をする)では、THA後の画像を「オフセットと回転中心」という切り口で読み、外転筋機能や単脚支持性といった力学的環境を推定しよう、という話をしました。

後編となる今回は、同じ画像を別の側面、すなわち「カップの設置角度」から読んでいきます。

今回のメインテーマは、脱臼リスクと可動域制限です。
ROM練習やADL指導で「どの動きが危ないのか」を事前に推理するうえで、カップの角度は欠かせない情報になります。

この記事でわかること

  • THA後の脱臼が、インピンジメントとテコ作用によって生じる仕組み
  • 術後X線で確認するカップの外方開角と前方開角
  • カップ前方開角とステム前捻角を合わせたcombined anteversionの考え方
  • カップ設置角度から、脱臼リスクや可動域制限をどのように推定するか

前提の知識:そもそもTHA後の脱臼はどのように起こるのか

THA後の脱臼は、一般的に次の要因で起こると考えられています(Dargel et al., 2014)。

  1. コンポーネント(インプラント)の設置不良、ルーズニング
  2. インプラントの頸部と臼蓋のインピンジメント
  3. 大腿骨と臼蓋(骨)のインピンジメント
  4. 軟部組織の張力不足による過可動性
THAで大腿骨頸部とカップがインピンジメントし脱臼へ至る模式図
インプラントとインプラントのインピンジメントシチュエーションを模した画像。
特に「スカート」と言われる、骨頭の下に出っ張りがあるような形態の場合このインピンジメントが生じやすい。
図はDargel et al. (2014)より。

これらのうち、特に理学療法士が考慮していくものとしては

  • コンポーネントの設置角度がどうなっているか
  • それを考慮すると、どのような運動でインピンジメントが生じやすくなっているか

という2点になります。

実際に骨模型を使って動かしてみると、国家試験で言われる「屈曲・内転・内旋」でなぜ後方脱臼が生じるか、という理屈がよく分かるんじゃないかと思います。

このような肢位が組み合わされて極端な肢位になると、前方でインピンジメントが生じてその部分が「テコ」のように作用し、後方に脱臼する、というわけです。

Acetabular Inclination (AI, 外方開角)

Acetabular inclination(AI)は、外方開角・外転角とも呼ばれます。(外方開角が最も一般的かも?)
左右の坐骨結節を結んだ線と、臼蓋の両端を結んだ線がなす角度として定義されます。

私が最初に参照した文献では両坐骨結節を結ぶ線を基準としていましたが(Budzinska et al., 2023)、両側の涙痕下端を結ぶ線を基準とするケースもあります。
どちらでも大きな差が生じることはないが、涙痕下端の方が骨盤傾斜や回旋の影響を受けづらい可能性がある、とも指摘されています(Bayraktar et al., 2017)

外方開角は、臼蓋の両端を結んだ線と、左右の坐骨結節を結んだ線の間でなす角度。

古典的には、AIの「セーフゾーン」として40±10°(Lewinnek safe zone)が提案されてきました。
ただし近年は、この静的なセーフゾーンだけでは脱臼リスク評価に不十分で、腰椎骨盤アライメント(spino-pelvic alignment)を含めた”functional safe zone”を考えるべきだ、と指摘されています(Iorio et al., 2025)。

現在はこのセーフゾーンの概念に関してはかなり懐疑的な意見が多い印象です。

AIの値をどう解釈するか

ざっくりした目安として、こんなイメージです。

inclination解釈
30°未満寝すぎ。lateral impingement、ROM制限
30〜45°比較的よく推奨される範囲
40±10°Lewinnek safe zone
50°以上かなり立ってる傾向。摩耗・edge loading・instability注意
60°超上方被覆低下、脱臼率増加と関連しうる

可動域への影響としては、AIが小さいほど屈曲・外転が制限され、AIが大きいほど内転・回旋が制限される傾向があります。これもまた骨の模型を使うとわかりやすいかもです。

この観点からのひとつの目安が45°です。

脱臼メカニズムと結びつける

AIが脱臼リスクに直結するのは、両極端のどちらでもリスクが上がるからです。

  • AIが大きい:骨頭上方の被覆率が下がり、臼蓋による「頭側からの押さえつけ(cranial buttress)」が弱くなる。
    後方でインピンジしたとき、そこを支点に上方へ抜けやすくなる(Zahar et al., 2013)。
  • AIが小さい:被覆はいいものの、今度はシンプルにインピンジメントが生じやすい
    禁忌肢位でカップ辺縁と頸部・骨性構造が衝突し、その接触点を支点に脱臼する。

PTとして特に注意したいのが、低AIの落とし穴です。
屈曲・外転の制限がインピンジメント由来なのに、それを”筋性の制限”と誤解して無理に可動域を広げようとすると、かえって脱臼リスクを高めることになりかねません。


Acetabular Anteversion (AA, 前方開角)

Acetabular anteversion(AA)は前方開角とも呼ばれ、臼蓋の前捻を評価する指標です。単純X線の骨盤前後像でも評価できますが(臼蓋の楕円陰影の大きさで直感的に読むことも可能です)、信頼性の点ではCTのaxial viewが確実です。

単純X線の骨盤前後像から前方開角を推定する方法は、楕円の長径と短径から推定する方法があります。
詳細はParkら(2018)の文献を参照。
CTのaxial viewがあればさらに容易に調べることができます。
左右の骨盤後縁を通る線ABを基準線として、その線に対する垂線CDと、臼蓋の前後端を通る線DEの間でなす角度が前方開角となります(図はGoyal et al. (2021)による)。

古典的な基準値は15±10°。これより大きければ過前捻、小さければ後捻と考えます。

前捻・後捻と脱臼方向

ここはADL指導に直結するので、しっかり押さえておきたいところです。

  • 過前捻(AA大):前方の被覆率が下がり、前方脱臼が起こりやすい。→ 伸展・内転・外旋の動きがリスクとなりうる
  • 後捻(AA小)後方脱臼が起こりやすい。→ 屈曲・内転・内旋の動きがリスク

余談ですが、よく「後方アプローチだと後方脱臼、前方アプローチなら前方脱臼がリスク」と言われますが、前方アプローチなら後方脱臼は気にしなくて良いというわけでは無いと考えておいた方が良いです。
例えば臼蓋の前方開角が極端に小さく、さらに(後述しますが)骨盤後傾位が強い高齢患者の場合、前方アプローチでもむしろ後方脱臼リスクが高まっている状態であると言えます。

「機能的前捻」という視点:骨盤の動きが効く

そして近年強調されているのが、静的な前捻だけでなく、腰椎骨盤のアライメントと可動性を加味した「機能的前捻(functional anteversion)」です(Iorio et al., 2025)。

というのも、骨盤が傾くと、臼蓋の実効的な前捻も変わるからです。
骨盤を1°傾けると臼蓋前捻は約0.8°変化し、骨盤前傾で前捻が増える方向に動くと報告されています(Zhu et al., 2010)。

臨床的にとりわけ大事なのが、姿勢変化に伴って骨盤の前後傾が適切に起こるかという点です。

  • 骨盤が前傾位で、後傾が出にくい患者 → 座位など股関節屈曲での後方脱臼リスク↑
    (骨盤前傾位での屈曲 → 前方インピンジ → 後方へ抜ける、という流れ)
  • 円背で骨盤後傾位に固まっている患者 → 股関節伸展での前方脱臼リスク↑

たとえば「座位で骨盤後傾が出ない患者さんに、低い座面への着座は要注意」、みたいな具体的なリスク予測が、画像+骨盤可動性の評価から立てられるわけです。
ここは前編の力学的視点とはまた違う、脱臼リスク指導という観点から重要な考え方になりますね。


Combined Anteversion (CA)

オフセットをfemoral offsetとacetabular offsetを合わせた”global offset”で見るべきなのと同じように、捻転も臼蓋側だけでなく大腿骨ステム側の前捻も合わせて見るべき、という考え方があります。
それがcombined anteversion(CA)です。

CAは、脱臼リスクや、インピンジせずに動かせる範囲(oscillation angle)を推定するうえで重要になります。
CAの一般的なsafe zoneは25〜50°とされます(Dorr et al., 2009)。

  • CAが低い=全体として後捻傾向 → 後捻の問題(後方脱臼リスク)が出やすい
  • CAが高い=全体として前捻傾向 → その逆

ROMの推定にも使える

CAは、獲得できる可動域の予測にも使えます。たとえばWidmerとZurfluh(2004)は、ADLに必要なROMを満たすための最適なCAを式として提案しています。

AVcup+0.7×AVstem=37.3°AV_{cup} + 0.7 \times AV_{stem} = 37.3°

つまり、臼蓋の前方開角に、ステム前捻角を0.7倍した値を足したときに37.3°になると、理論的にADLに必要なROMを満たすことが出来るのではないか?ということです。
ここでの必要なROMは、”Kapandji”の記述に基づいて、屈曲≧130、内旋≧80、伸展≧40、外旋≧40,外転≧50、内転≧50と定められています。

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これに関連するものに、Yoshimine(2006)による式もあり、こちらは外方開角も考慮して提案されています(ここでは詳解しないので、詳細は上記本文を参照ください)。

臨床的な使い方としては、たとえばCAが大きく過前捻に振れているなら、インプラント的な要因からも伸展・外旋が出にくいだろう、と予測できます。
逆にCAが低値なら、屈曲・内転・内旋が出にくい、と読めます。

もちろん、CAで達成可能なROM全てを予測することは難しいですが、こういう観点からもある程度予測ができそう、ということを知っておくのは良さそうです。


まとめ:PTとしてカップ角度をどう活かすか

前後編を通して、THA後の画像を2つの軸で読んできました。今回の要点を、実践の流れで整理すると

  1. AI・AA・(できればCAも)を定量的に確認する
  2. そこから、制限されやすい可動域脱臼しやすい方向を推定する
  3. その推定を、禁忌肢位の指導・ROM練習の進め方・ADL指導に落とし込む

何よりも、「可動域制限を安易に”筋性・軟部組織性”と決めつけない」というのが重要かなあと思います。
低AIや捻転の問題によるインピンジメント性の制限を無理に広げにいくと、脱臼リスクを高めます。
画像でカップ角度を押さえておけば、「これは広げてよい制限か、触ってはいけない制限か」を判断できます。


私見

カップの角度を読めるようになって一番変わったのは、禁忌肢位の指導が「マニュアル」から「その患者固有のリスク」に変わったことです。

「後方アプローチだから屈曲・内転・内旋に注意」これはこれで正しいのですが、実際にはカップの前捻・傾斜、そして骨盤の可動性によって、危ない動きの中身は患者ごとに違います。画像を読めると、「この人は特に座位が危ない」「この人はむしろ伸展方向」と、リスクを個別化できます。
一概に「後方アプローチだから」ではなく、その中でもリスクにグラデーションをつけて評価をする、ということが出来るようになるためには画像を読めるようにするのが最も確実です。

今回は少ししか触れられませんでしたが、脊椎骨盤部との関連についてはもう少し掘り下げて考える必要がありそうです。
このあたりは脱臼リスクだけでなく、術後の自覚的脚長差にも影響する概念なので。

THA術後の自覚的脚長差についても掘り下げて書いていきたいですね。

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参考文献

  • Bayraktar V, Weber M, von Kunow F, et al. Accuracy of measuring acetabular cup position after total hip arthroplasty: comparison between a radiographic planning software and three-dimensional computed tomography. Int Orthop. 2017;41(4):731-738. doi:10.1007/s00264-016-3240-1
  • Budzińska MB, Maciąg BM, Żarnovsky K, et al. How to analyze postoperative radiographs after total hip replacement. Jpn J Radiol. 2023;41(1):14-18. doi:10.1007/s11604-022-01332-8
  • Dargel J, Oppermann J, Brüggemann GP, Eysel P. Dislocation following total hip replacement. Dtsch Arztebl Int. 2014;111(51-52):884-890. doi:10.3238/arztebl.2014.0884
  • Dorr LD, Malik A, Dastane M, Wan Z. Combined anteversion technique for total hip arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 2009;467(1):119-127. doi:10.1007/s11999-008-0598-4
  • Goyal T, Paul S, Choudhury AK, Gupta T. Assessment of Acetabular Component Anteversion after Total Hip Arthroplasty: Comparison of Anteroposterior and Cross-Table Lateral Radiographs with Computed Tomography Scans. Clin Orthop Surg. 2021;13(3):329-335. doi:10.4055/cios20274
  • Iorio R, Viglietta E, Corsetti F, et al. Lewinnek zone not “the be-all and end-all” functional planning for acetabular component positioning in total hip arthroplasty. Arthroplasty. 2025;7(1):2. Published 2025 Jan 6. doi:10.1186/s42836-024-00284-w
  • Park YS, Shin WC, Lee SM, Kwak SH, Bae JY, Suh KT. The best method for evaluating anteversion of the acetabular component after total hip arthroplasty on plain radiographs. J Orthop Surg Res. 2018;13(1):66. Published 2018 Apr 2. doi:10.1186/s13018-018-0767-4
  • Widmer KH, Zurfluh B. Compliant positioning of total hip components for optimal range of motion. J Orthop Res. 2004;22(4):815-821. doi:10.1016/j.orthres.2003.11.001
  • Yoshimine F. The safe-zones for combined cup and neck anteversions that fulfill the essential range of motion and their optimum combination in total hip replacements. J Biomech. 2006;39(7):1315-1323. doi:10.1016/j.jbiomech.2005.03.008
  • Zahar A, Rastogi A, Kendoff D. Dislocation after total hip arthroplasty. Curr Rev Musculoskelet Med. 2013;6(4):350-356. doi:10.1007/s12178-013-9187-6
  • Zhu J, Wan Z, Dorr LD. Quantification of pelvic tilt in total hip arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 2010;468(2):571-575. doi:10.1007/s11999-009-1064-7

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