SLRテストは、整形外科的テストの中でもトップクラスに知名度が高く、職種を問わず使われるテストです。
ただ、多くの人にとってSLRは「坐骨神経の症状をみるテスト」くらいの理解で止まっているんじゃないでしょうか。
脚を挙げて、痛みが出たら陽性。……で終わってしまう。
スランプテストの扱いはもっとマイナーです。
SLRに比べると、一気に知名度が落ちます。
知っていても「座って膝を伸ばすやつ」くらいの認識で、正直なんとなくやっている、という人も多いと思います。
以前の自分も、それぞれの動きが何を意味しているのかまで考えたことはありませんでした。
でも実はこの2つ、神経ダイナミクス(neurodynamics)という共通の枠組みの上に立っているテストです。
そして本来の方法まで理解すると、単に病態があるかないかだけでなく、その症状は本当に神経由来なのか、どの神経なのか、滑走の問題なのかテンションの問題なのかというところまで踏み込める、かなり奥の深いテストになります。
今回はこの2つのテストを、神経ダイナミクスの視点から読み直してみます。
今回は文献というより、以下のテキストを参考にしています。
- Butler D. 『神経系モビライゼーション』
- Shacklock M. “Clinical Neurodynamics”
- Magee D. “Orthopedic Physical Assessment”
この記事でわかること
- 神経ダイナミクスと、神経が滑走・伸張・圧迫される仕組み
- SLRテストとスランプテストの基本的な手順
- 鑑別操作を用いて神経系の関与を判断する方法
- 症状や関節肢位から、関与する神経や障害タイプを絞る考え方
- 感度・特異度・尤度比に基づく両テストの検査精度と臨床的な解釈
神経ダイナミクスとは何か
ざっくりとした流れとして、Butlerが神経系を「動く連続した組織」として捉える臨床体系(神経系モビライゼーション)を提示し、それをShacklockが neurodynamics という枠組みとして体系化した、という理解でおおむね良いかと思います。
その大前提にあるのが、神経は全ての線維が連続しているという性質です。
筋や靭帯のように「その場所で完結している組織」ではなく、指先から脊髄まで一本につながっている。
だからこそ、遠く離れた場所を動かすと、そこに力学的な影響が及ぶわけです。この性質こそが、神経系のテストと治療の土台になります。
神経まわりを3階層で捉える
Shacklockの枠組みでは、神経に関わる組織を3つの階層で整理します。
| 階層 | 内容 |
|---|---|
| 力学的接触領域(mechanical interface,インターフェース) | 神経が接する周囲の組織。腱・筋・骨・椎間板・靭帯・筋膜・血管など |
| 神経構造(neural structure) | 神経実質そのもの。脳・脊髄・神経根・末梢神経など |
| 神経支配組織(innervated tissue) | その神経に支配されている組織 |
この3階層で考えるメリットは、「神経の症状」と言ったときにどこが問題なのかを切り分けられる点にあります。
たとえば、神経根障害があると、その支配レベルの筋にトリガーポイントが形成されることがあります。ここで神経の関与を考えられないと、トリガーポイントだけを一生懸命治療して、根本にアプローチできていない——ということが起こりうるわけですね。
それ以外にも、(今回は紹介していないですが)治療法として単に神経を滑走させるだけでなく、関節運動を使ってインターフェースを変化させる、という方法も神経系に対する治療手技として考えられています。
神経は「滑る」「伸びる」「圧される」
神経の力学的な動きは、大きく3つに分けられます。
- 滑走(sliding)
- 伸張(tension)
- 圧迫(compression)
このうち、最も重要なのは滑走です。
神経は関節運動に対して、伸びるだけでなく「滑って逃げる」ことで対応しています。
伸張と同期して滑走が起こることは、伸張に伴う虚血を抑えるという点でも重要な意味を持ちます。
「動かした関節に向かって神経は滑走する」
ここが、テストを理解するうえでのキーポイントになると思われます。
神経は、運動が起こった関節に向かって収束するように滑走します。つまり、
- 足関節を背屈させれば → 坐骨神経〜脛骨神経は尾側へ滑走する
- 頸部を屈曲させれば → 頭側へ滑走する

関節運動が起こると、その周囲にある神経は関節運動の中心に向かって滑走し、中心付近の神経では伸張が生じる。
図は”Clinical Neurodynaics”による。
この単純な原理を押さえておくと、SLRやスランプでの各操作が「神経をどっちに動かしているのか」が見えてきます。
鑑別操作こそがテストの本体
ここからが本題です。
SLR(スランプ)テストで症状が出た、というだけではテストとしては不十分です。
なぜなら、SLRの操作では神経以外の要因も動かされているからです。
したがって、これらの神経系の検査で真に「陽性である」と判断する上では2つの軸が必要になります。
- 主訴に合致する症状が「再現」されること
- 鑑別操作(differentiating movement)で症状の変化が誘発されること
SLRで例えるとこうなります。
- SLRで症状が再現される(←この時点では神経が原因とは断定できない)
- そこに足関節背屈や頸部屈曲を加えて、症状が変化する
- → ここではじめて「神経系が関与している」と言える
足関節背屈も頸部屈曲も、腰背部のハムストリングや股関節の環境をほとんど変えません。
でも神経のテンションは変える。
この差分を使って犯人を絞り込むわけです。
「SLR陽性でした」で終わらせるのではなく、そこから一手加えるかどうか。ここがテストの本体と言ってもいいと思います。
SLRテストを読み直す
基本の手順
- 患者は背臥位でリラックス
- 股関節は中間位からわずかに内転+内旋、膝は完全伸展位
- そこから、疼痛や腰背部・下肢後面の張りを訴えるまで股関節を屈曲
シンプルですが、単に陽性/陰性で判定するのではなく、どの条件でどこに症状が出たかを見ることが大事です。
繰り返すように、誘発された症状の性状が主訴と一致していることが神経系の検査においては重要になります。
症状の「場所」で解釈が変わる
Mageeらは、症状の部位から次のように解釈できるとしています。
- 主に腰背部の疼痛 → 中心性の突出による硬膜袖への影響の可能性。腰背部「のみ」なら椎間板変性は小さく、中心への突出が考えられる
- 主に下肢の疼痛 → 神経組織が特に「外側」で圧迫されている可能性
70度という目安
L5・S1・S2神経根(および坐骨神経)は、股関節屈曲70度付近で完全に伸張されるとされます。
つまり、それより先の可動域で疼痛が出るなら、それは関節性のもの(椎間関節など)かもしれない、という解釈になります。
ただしハムストリングの柔軟性も関わるので、必ず健側と比較することが前提です。
組み合わせで「どの神経か」を絞る
さらに、関節の組み合わせを変えることで責任病変をある程度鑑別できます。
上肢の神経系テストであるULNT(Upper Limb Neurodynamics Test, ULTTとも)で、肩〜手までの肢位を変えて橈骨神経、尺骨神経、……といったように鑑別するのと同じようなものですね。
| SLR | SLR 2 | SLR 3 | SLR 4 | Crossed SLR | |
|---|---|---|---|---|---|
| 股関節 | 屈曲+内転 | 屈曲 | 屈曲 | 屈曲+内旋 | 屈曲 |
| 膝関節 | 伸展 | 伸展 | 伸展 | 伸展 | 伸展 |
| 足関節 | 背屈 | 背屈 | 背屈 | 底屈 | 背屈 |
| 足部 | – | 外がえし | 内がえし | 内がえし | – |
| 足趾 | – | 伸展 | – | – | – |
| 影響を受ける神経 | 坐骨+脛骨 | 脛骨 | 伏在 | 総腓骨 | 神経根(椎間板突出) |
「SLR陽性」の一言で片付けていたものが、こうして見るとかなり解像度が上がります。
とはいえ、この方法は理論的なメカニズムに基づいているものであり、全ての操作について実証的に明らかにされているわけではないので参考程度にするものかもしれないです。
スランプテストを読み直す
基本の手順
スランプテストは、順番が命です。
- ベッドサイドで座位(下肢は下垂、股関節は中間位)
- 胸腰部を屈曲(このとき頸椎が屈曲しないよう顎を保持)
- 肩を押さえてその姿勢を保持
- 頭頸部を最大限屈曲(顎が胸につくように)
- 肩〜後頭部を押して圧を加える
- 足関節を最大背屈させながら、患者が自動で膝を伸展
- 膝が伸ばせない場合、後頭部の押圧を外して頸部を伸展させ、膝伸展が可能になるか確認
ざっくり言えば、胸腰部→頸部の順に屈曲 ⇒ 足関節背屈と膝伸展 ⇒ 膝が上がらなければ頸部をリリース、という流れです。
そして、どの操作で症状が生じるのか、というところを見ていくとそのまま治療手技になります。(これについてはこの後整理していきます)
最後の「頸部リリース」こそが鑑別操作
ここが、スランプテストの一番おいしいところだと思います。
膝が伸展できなかった患者で、頸部の屈曲を解除したら膝が伸ばせるようになった——これはつまり、膝を制限していたのは膝まわりの組織(ハムストリングなど)ではなく、頸部から連続する神経系のテンションだったということです。
頸部を伸展しても、膝やハムストリングのテンションは1ミリも変わりません。変わるのは神経のテンションだけ。だから「頸部を戻したら膝が伸びた」は、神経が犯人であることの強い証拠になるわけです。
まさに、さきほどの鑑別操作そのものが手順に組み込まれているテストなんですね。
Butlerによる ST1〜4:どの神経を狙うか
そしてButlerは、関節角度の組み合わせを変えることで、特定の神経病変を狙い撃ちする方法を提案しています。
(先ほどのSLRテスト、そしてULNTと同じ考え方です)
| ST 1 | ST 2 | ST 3 | ST 4(長座位) | |
|---|---|---|---|---|
| 頸椎 | 屈曲 | 屈曲 | 屈曲 | 屈曲+回旋 |
| 胸腰部 | 屈曲 | 屈曲 | 屈曲 | 屈曲 |
| 股関節 | 屈曲(>90°) | 屈曲(>90°)+外転 | 軽度屈曲(約20°) | 屈曲(>90°) |
| 膝関節 | 伸展 | 伸展 | 伸展 | 伸展 |
| 足関節 | 背屈 | 背屈 | 底屈 | 背屈 |
| 狙う神経 | 脊髄・頸腰神経根・坐骨神経 | 閉鎖神経 | 大腿神経 | 脊髄・頸腰神経根・坐骨神経 |
ST3は大腿神経とされますが、走行を考えたら股関節は伸展方向に動かした方が良さそうで、そうなると結局Prone Knee Bent(いわゆるFNSテスト)の方が使いやすいんじゃないかと思います。
これも参考程度ですかね。
滑走障害か、テンション障害か
そしてもう一つ、Shacklockの枠組みで面白いのが、評価がそのまま治療方針につながるという点です。
スランプの開始肢位(座位)で症状が出てしまう患者に対して、追加する運動を分けて反応をみると、こう解釈できます。
| 誘発される操作 | 解釈 |
|---|---|
| 頸部屈曲で症状が再現 | 頭側への滑走障害 |
| 足関節背屈→膝伸展で症状が再現 | 尾側への滑走障害 |
| 両方で症状が再現 | テンション障害 |
さらにテンション障害の特徴として、「一方向に動かすと症状が増悪し、反対方向に動かすとさらに増悪する」というパターンが挙げられます。SLRで症状が出て、そこに頸部屈曲を足すとさらに悪化する、というような場合ですね。
ここまで分けられると、介入の方向が決まります。
- 滑走障害 → スライダー(神経を滑らせる手技)
- テンション障害 → まずテンションを抜く肢位から入り、慎重にテンショナーへ
つまり、「陽性/陰性」ではなく「どのタイプの障害か」を判別するためのテストとして使える、ということです。
ここがニューロダイナミクスという体系の強みだと感じます。
検査精度はどうなのか
臨床判断に使う以上、精度も押さえておきたいところです。
SLRテスト
| 報告 | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|
| Devillé et al. (2000) | 0.91 | 0.26 |
| Majlesi et al. (2008) | 0.52 | 0.89 |
Devilléらの数字を見ると、感度が高く特異度が低い——つまり「陰性なら除外に使いやすいが、陽性でも確定はできない」という、典型的なスクリーニング向きの性格が見えます。
スランプテスト
| 報告 | 感度 | 特異度 | +LR | -LR |
|---|---|---|---|---|
| Stankovic et al. (1999) | 0.44 | 0.58 | ||
| Majlesi et al. (2008) | 0.84 | 0.83 | ||
| Urban et al. (2015) | 0.91 | 0.70 | 3.03 | 0.13 |
| González et al. (2020) | 0.80 | 0.78 | 3.61 | 0.25 |
報告によってばらつきはありますが、Majlesiらの報告ではSLRより特異度が高い結果になっています(L5-S1のLDHに限れば感度0.91・特異度0.90)。
条件を足すと精度が上がる
ここが実践的で面白いところです。
- Urbanら(2015)の報告では、陽性の条件に「疼痛発生部位が膝以遠であること」を加えると、感度は下がるものの特異度が上がり、陽性尤度比が11.9まで跳ね上がります
- Dejerine徴候(咳嗽や排便で脊髄腔内圧が高まると症状が誘発される)と組み合わせても、精度はわずかに向上します
「陽性だった」だけでなく、どこに症状が出たかまで記録することの価値がよくわかる数字ですね。
私見
こうして整理してみると、SLRもスランプも「痛みが出るかどうかを見るテスト」ではなく、症状の犯人を絞り込むための道具なんだということがよくわかります。
いわゆるその他の整形外科テストと異なり、この検査法は少し工夫することでそのまま治療手技にもなるので、ぜひ使えるようにしておきたいですね。
頸椎や腰椎疾患をもつ患者はもちろん、上下肢の神経障害っぽい症状を訴える患者さんの病態鑑別でも使えるので。
参考文献
- Butler DS(伊藤直榮 監訳). バトラー 神経系モビライゼーション:触診と治療手技. 協同医書出版社; 2000.
- Devillé WL, van der Windt DA, Dzaferagić A, Bezemer PD, Bouter LM. The test of Lasègue: systematic review of the accuracy in diagnosing herniated discs. Spine (Phila Pa 1976). 2000;25(9):1140-1147. doi:10.1097/00007632-200005010-00016
- Ekedahl H, Jönsson B, Annertz M, Frobell RB. Accuracy of Clinical Tests in Detecting Disk Herniation and Nerve Root Compression in Subjects With Lumbar Radicular Symptoms. Arch Phys Med Rehabil. 2018;99(4):726-735. doi:10.1016/j.apmr.2017.11.006
- González Espinosa de Los Monteros FJ, Gonzalez-Medina G, Ardila EMG, Mansilla JR, Expósito JP, Ruiz PO. Use of Neurodynamic or Orthopedic Tension Tests for the Diagnosis of Lumbar and Lumbosacral Radiculopathies: Study of the Diagnostic Validity. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(19):7046. doi:10.3390/ijerph17197046
- Homayouni K, Jafari SH, Yari H. Sensitivity and Specificity of Modified Bragard Test in Patients With Lumbosacral Radiculopathy Using Electrodiagnosis as a Reference Standard. J Chiropr Med. 2018;17(1):36-43. doi:10.1016/j.jcm.2017.10.004
- Magee DJ, Manske RC. Orthopedic Physical Assessment. 7th ed. Elsevier, Inc; 2020.
- Majlesi J, Togay H, Unalan H, Toprak S. The sensitivity and specificity of the Slump and the Straight Leg Raising tests in patients with lumbar disc herniation. J Clin Rheumatol. 2008;14(2):87-91. doi:10.1097/RHU.0b013e31816b2f99
- Shacklock M. Clinical Neurodynamics. 2nd ed. Churchill Livingstone; 2005.
- Stankovic R, Johnell O, Maly E, Willner S. Use of lumbar extension, slump test, physical and neurological examination in the evaluation of patients with suspected herniated nucleus pulposus. A prospective clinical study. Manual Therapy. 1999.
- Urban LM, MacNeil BJ. Diagnostic Accuracy of the Slump Test for Identifying Neuropathic Pain in the Lower Limb. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(8):596-603. doi:10.2519/jospt.2015.5414




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