リハビリテーション膝関節

関節原性筋抑制(AMI)とは?膝術後に大腿四頭筋が入らない理由

関節原性筋抑制(AMI)が末梢・脊髄・大脳皮質で生じるメカニズム リハビリテーション

膝の術後やケガのあとのリハビリで、こんな場面に出くわしたことはないでしょうか。

大腿四頭筋に、まったく力が入らない」。

セッティングエクササイズ(いわゆるタオル潰し)を指示しても、膝蓋骨がピクリとも動かない。
痛がっているわけでも、サボっているわけでもなさそうなのに、どうしても収縮が出てこない……。
ということが人工膝関節全置換術(TKA)後や前十字靭帯再建術(ACLR)後ではしばしば見られます。

この現象の正体が、今回取りあげる関節原性筋抑制 (arthrogenic muscle inhibition; AMI)です。

以前、神経可塑性の記事でも少しだけ触れたのですが、AMIは「掘れば掘るほど奥が深い」テーマで、単体で扱う価値が十分にあると感じたので、今回じっくり整理してみます。

参考にしたのは主に以下の文献です。

【今回の参考文献】

  • Lepley AS, Lepley LK. Mechanisms of arthrogenic muscle inhibition. J Sport Rehabil. 2022;31(6):707-716.
    PubMed Link
  • Norte G, et al. Arthrogenic muscle inhibition: Best evidence, mechanisms, and theory for treating the unseen in clinical rehabilitation. J Sport Rehabil. 2022;31(6):717-735.
    PubMed Link
  • Rice DA, McNair PJ. Quadriceps arthrogenic muscle inhibition: neural mechanisms and treatment perspectives. Semin Arthritis Rheum. 2010;40(3):250-266.
    PubMed Link

関節原性筋抑制(AMI)とは何か

関節原性筋抑制(AMI)とは、関節の障害それ自体によって引き起こされる、筋出力の低下・筋活動の抑制を指します。

ここで強調しておきたいのは、AMIは「筋肉が傷ついたから力が出ない」のではなく、関節からの異常な神経シグナルによって、神経系が筋の活動を”抑制してしまっている”状態だ、という点です。

筋肉そのものに罪はないのに、神経系の都合で力が出せなくなっている
これがAMIを理解する出発点になります。

そして、その抑制は1か所で起きているわけではありません。
上で挙げたレビューを踏まえると、AMIは大きく、

  1. 末梢(関節からの求心性入力の変化)
  2. 脊髄(反射レベルでの抑制の増強)
  3. 皮質・体性感覚系(脳レベルでの再編成)

という複数の階層で起きていると考えられています。順番に見ていきましょう。

関節原性抑制は、筋周囲の関節から脊髄、脳まで幅広い領域の変化に起因して生じる。図はLepley & Lepley (2022)より。

関節原性筋抑制のメカニズム①:末梢からの求心性入力

AMIの最も末梢の引き金は、関節からの求心性入力の変化です。具体的には、腫脹・疼痛・メカノレセプターの損傷などが挙げられます。

腫脹(関節内水腫)

腫脹は、それ単独で(炎症や構造的損傷とは独立して)筋抑制を引き起こすことが知られています。

これは結構重要な視点ですね。

人の膝関節で擬似的に腫脹状態を作ると、それだけで大腿四頭筋のEMG活動・H反射振幅・筋出力が低下するという結果が多くの研究で報告されています。
逆に、急性の膝損傷後に関節内の液体を150mL排出したところ、1〜2時間後には大腿四頭筋のピークトルクが約400%上昇し、外側広筋・内側広筋の筋活動が最大約700%増加した、という症例報告もあります(Reeves & Maffulli, 2008)。

つまり、腫れているというだけで、筋肉は力を出しにくくなるわけです。

ちなみに、腫脹によるAMIは膝-大腿四頭筋だけで起こるわけではなく、股関節-大殿筋で起こることも確認されています。

これについて、Freemanら(2013)は股関節内に造影剤を含む混合液を注入した群では、大殿筋のピークEMGが有意に低値を示したという結果を提示しています。

これを考慮すると、例えば人工股関節全置換術後には大殿筋でAMIが生じる可能性もあるのではないか、と推察することができます。

疼痛・メカノレセプターの損傷

疼痛も、腫脹とは別の経路で筋抑制を起こします。侵害刺激を伝えるIII群・IV群線維の活動が高まると、これもα運動ニューロンの活動を抑制します。

また、外傷や手術で靭帯・関節包のメカノレセプターが損傷し、関節から神経系へのつながりが途絶えること自体も、筋抑制につながると指摘されています。


関節原性筋抑制のメカニズム②:脊髄反射の変化

末梢からの異常な入力は、脊髄レベルでの反射機構を変化させます。

シナプス前/後抑制、反回抑制、相反抑制といった抑制性の反射回路が増強され、その結果としてα運動ニューロンの興奮性が下がります。
これは動物実験だけでなく、ACL損傷・再建後、膝蓋腱障害、足関節捻挫、慢性足関節不安定症など、実際の臨床でも観察されている現象です。

ここで興味深いのが、脊髄反射の興奮性は時間とともに変化するという点です。
急性期にもっとも抑制されますが、腫脹・疼痛が引くにつれて回復していきます。
ところがACL再建後や変形性関節症では、晩期にはむしろ反射が”増強”していることがあり、これは機能を維持しようとする代償的なメカニズムではないか、と考えられています。

さらにもう一つ、この変化は受傷肢だけでなく、反対側の同じ筋にも影響しうるというのも押さえておきたいポイントです。


関節原性筋抑制のメカニズム③:皮質・体性感覚系の変化

AMIの面白さ(と厄介さ)は、話が脊髄で終わらないところにあります。

ACL損傷の研究では、求心路の遮断によって靭帯と体性感覚皮質のつながりに障害が生じている可能性が示されています。
再建したACLでは、固有受容感覚を担うRuffini終末がほとんど再生せず、代わりに自由神経終末ばかりが増えることもわかっており、再建ACLは元のACLほど「感覚センサー」として働けていない可能性があります。

また、こうした患者では運動を遂行する際に前頭葉への依存度が高まることが観察されています。
つまり、失われた体性感覚を補うために、より多くの「注意」や「認知処理」を動員して動いているわけです。
これに関連して、小脳や視覚への依存が高まる、という報告もあります。

さらに近年では、皮質脊髄路の白質に構造的な変化まで起きることが、ACLやTKA、慢性足関節不安定症、腰痛などのあとに確認されています。

ちなみにこれらの変化は神経変性疾患(多発性硬化症やパーキンソン病)でみられるような中枢の変化と類似しているとも言及されています。
一つの関節の損傷がそのように非常に大きな影響を与えうる点は注目に値します。


なぜAMIに対して筋力トレーニングだけでは不十分なのか

ここまでの話を踏まえると、ある重要な臨床的含意が見えてきます。

Lepleyら(2020)は、AMIに続発する筋萎縮は、廃用性の筋萎縮とは性質が違うと指摘しています。ベッド上安静による萎縮とは異なり、AMI後の萎縮は、

  • 神経学的な要因が強い(抑制の機序が残り続けている)
  • 筋線維タイプの可逆的変化が起こりにくい
  • 筋線維内部の構造が変化している
  • 異化(タンパク質分解)が優位な環境ができている

といった特徴を持ちます。

ということは、「萎縮しているから、とりあえず負荷をかけて鍛える」という発想だけでは不十分なわけです。
神経学的な抑制が残ったまま負荷だけかけても、うまくいきません。

したがって、介入の順番としては、

  1. まず腫脹・関節内圧をコントロールする
    →最初に抑制を”外すことにフォーカスする
  2. 脱抑制的な介入(NMES、バイオフィードバック、運動イメージなど)で、まず随意的に収縮できる状態をつくる
    →次に収縮を”促すような介入を行う
  3. そのうえで、低強度の持久的負荷 → エキセントリック → 運動学習、と進めていく

という段階を踏む必要がある、と考えられています。


関節原性筋抑制へのリハビリ介入のポイント

AMIへのアプローチは、大きく3つに整理できます。

  1. 炎症・疼痛・腫脹をコントロールするアプローチ
  2. 求心性入力・中枢興奮性を調整する(neuromodulation的な)アプローチ
  3. 感覚再学習・運動学習を促すアプローチ

炎症・腫脹・疼痛のコントロール

アイシングは、腫脹管理としての効果には議論があるものの、疼痛コントロールや脱抑制という観点では有望とされています。

あわせて、患部挙上・圧迫・(下肢なら)足関節の自動運動による腫脹コントロールも基本になります。

脱抑制・興奮性を高める

  • TENS……Aβ線維を刺激し、III/IV群線維からの侵害入力をブロックすることで、α運動ニューロンが抑制される”環境”を取り除く。狙った筋の等尺性収縮と組み合わせるのがポイント。
  • NMES……抑制されて随意収縮が出しにくい筋に、強制的に収縮を起こさせる。利用しやすさからAMI介入の1st lineになりやすい。

TENSとNMESは、目的が違います。
TENSは「抑制を外す」、NMESは「興奮(収縮)を足す」、という感じでしょうか。
混同しないようにしておくと、使い分けの意図が明確になります。

整理するとこんな感じ(パラメータはTENS, NMESでそれぞれPietrosimoneら(2009), Conleyら(2021)を参照)。
もちろん目安なので、この辺は電気刺激療法の原理に則って調整する必要はあります。

項目TENSNMES
目的抑制を外す(脱抑制)収縮を強制的に起こす(興奮を足す)
作用機序Aβ線維を刺激し、III/IV群線維からの侵害入力をブロック(ゲートコントロール)運動神経を直接刺激し、筋収縮を誘発
周波数100〜150Hz(高周波/conventional)50Hz以上(50〜100Hzで滑らか・快適)
パルス幅100〜200µs250µs〜1ms
強度不快感のない感覚レベル耐えられる範囲で徐々に上げる(運動レベル)
通電パターン連続的on:off=1:2〜1:3(on 5〜10秒、ランプ2〜3秒)
時間20分以上セッションに応じて
併用・コツ狙った筋の等尺性収縮と組み合わせる膝60度屈曲位が収縮しやすい/電極は大きめが快適

中枢レベルにアプローチする

  • 健側へのエキセントリック運動(cross-education効果)……術側に高強度運動が使えない時期の選択肢。ただしエビデンスは症例研究レベルで、実装するならACLR後など限定的か。
  • EMGバイオフィードバック……運動皮質の興奮性を高め、抑制系の経路を”迂回”して新たな興奮性活動を作る、という発想。

どの介入を使うにせよ、大事なのは「その介入が、AMIのどの階層に効いているのか」を意識することです。
アイシングは腫脹を介した脊髄レベルの抑制を外す、NMESは興奮を足す——というように、狙いが違います。
ここが曖昧なまま「とりあえずやる」だと、効果判定が難しくなってしまいます。


まとめ

ただ関節が腫れているだけ、というところから実際は脳のレベルにまで変化があるというのはとても興味深い点ですね。

術後や外傷後にアイシングなどをして腫れを減らす、ということはほとんどの人が実践していることだと思いますが、それは痛みを取るというだけではなく筋出力を保つという点でも重要だということですね。

力が弱いから筋トレ、みたいな短絡的な思考で介入をしないように気をつけたいですね。


参考文献

  • Conley CEW, Mattacola CG, Jochimsen KN, Dressler EV, Lattermann C, Howard JS. A Comparison of Neuromuscular Electrical Stimulation Parameters for Postoperative Quadriceps Strength in Patients After Knee Surgery: A Systematic Review. Sports Health. 2021;13(2):116-127. doi:10.1177/1941738120964817
  • Freeman S, Mascia A, McGill S. Arthrogenic neuromusculature inhibition: a foundational investigation of existence in the hip joint. Clin Biomech (Bristol). 2013;28(2):171-177. doi:10.1016/j.clinbiomech.2012.11.014
  • Lepley AS, Lepley LK. Mechanisms of arthrogenic muscle inhibition. J Sport Rehabil. 2022;31(6):707-716. doi:10.1123/jsr.2020-0479
  • Lepley LK, Davi SM, Burland JP, Lepley AS. Muscle atrophy after ACL injury: Implications for clinical practice. Sports Health. 2020;12(6):579-586. doi:10.1177/1941738120944256
  • Norte G, Rush J, Sherman D. Arthrogenic muscle inhibition: Best evidence, mechanisms, and theory for treating the unseen in clinical rehabilitation. J Sport Rehabil. 2022;31(6):717-735. doi:10.1123/jsr.2021-0139
  • Pietrosimone BG, Hart JM, Saliba SA, Hertel J, Ingersoll CD. Immediate effects of transcutaneous electrical nerve stimulation and focal knee joint cooling on quadriceps activation. Med Sci Sports Exerc. 2009;41(6):1175-1181. doi:10.1249/MSS.0b013e3181982557
  • Reeves ND, Maffulli N. A case highlighting the influence of knee joint effusion on muscle inhibition and size. Nat Clin Pract Rheumatol. 2008;4(3):153-158. doi:10.1038/ncprheum0709
  • Rice DA, McNair PJ. Quadriceps arthrogenic muscle inhibition: neural mechanisms and treatment perspectives. Semin Arthritis Rheum. 2010;40(3):250-266. doi:10.1016/j.semarthrit.2009.10.001

コメント

タイトルとURLをコピーしました